あの後俺は、グレゴリーに紹介されたこのホテルに滞在しているらしい看護婦に身体を診てもらうことになった。
ちなみに、金歯入りスープはちゃんと完食した。…中に入っていたものは、想像したくもない。

だけど、俺は看護婦のもとへ行くのも…少しだけ戸惑っていた。
ここのホテルにいるやつら…、ネコゾンビと名前さん以外はまともじゃない。もし、その看護婦も…おかしな奴だったら?

そんな不安を感じながら、俺は看護婦のいるホテルの部屋へと恐る恐る足を踏み入れた。



中に入ると、ツンっと薬品のにおいが漂ってきた。
部屋には簡易なベッドと、机と椅子が置いてあった。案外普通だな、なんて最初は思ったのだが…。

部屋の壁に飾られている、巨大な注射器を見た瞬間凍りついた。


「どう考えても…おかしいだろ…。メモリが、リットルって…」

巨大注射器は1メモリで1リットル。…だとしたら、この注射器で吸い上げたら…どれだけの血が採血されてしまうのだろう…?
やっぱり、碌な所じゃなかった。俺はすぐにこの部屋から出て行こうとしたのだが、足音が聞こえてきたので足を止める。…まさか。

俺は急いでベッドの下へと隠れた。ドキドキと心臓が五月蝿い。
すると、バンっと扉が開く音がして、複数の足音が聞こえてくる。


「あらぁ、いないじゃない」
「おや…まだいらっしゃっておりませんでしたか」
「もしかして逃げたのかもしれないわよぉ。部屋にでも行ってみましょうかねぇ」


一人はグレゴリー。そして、女性の声がしたから…もう一人は例の看護婦なのだろう。
巨大注射器を壁に飾るくらいだ。どんな趣味の悪い女なんだ…。そう思いながら、ベッドの下から少しだけ覗きこ…っ!!!

俺は息を呑んだ。グレゴリーの隣にいたのは、白衣に身を包んだピンク色の巨大なトカゲだったからだ。…な、なんだ…アイツ…!



「それにしても、その客はピッチピチの若い男らしいわねぇ」
「ええ、中々気の強いお方のようですよ…ヒッヒッヒ」
「14歳…、まだまだガキんちょね。ケツの青い子供が何でここに迷い込んできたのかしら」
「それはお客様が何かに悩んでいらっしゃるからですよ。お若いながら、壮絶な体験をしたのでしょう」
「まぁ、それは大変ねぇ…。早く採血してあげないと」
「キャサリン、あくまで健康診断で御座いますよ」
「どの注射器を使おうかしらあ。プライド高そうだから、このブランド物にしようかしらあぁあああ」
「キャサリン、看護婦の自覚を忘れぬように」


とんだヘマトフィリアだ。
声を震わせながら注射器をその爬虫類特有の長く真っ赤な舌で愛おしげに舐めるキャサリンと呼ばれたトカゲに恐怖を覚えて、少しだけ身を捩じらせたときに音を立ててしまった。…や、やばい…。



「おや?どなたかいらっしゃるのですか?」
「だあれえ?隠れているのはぁ!」


グサリ



「(っ…!!!!)」

俺のいる場所の真横に刺さったのは、巨大注射器の針。嘘、だろ…?俺、今ベッドの下にいたんだぞ?ベッドを貫通したっていうのか?


「…おや、気のせいですか」
「あぁあら残念。頚動脈を貫いたと思ったのに…」
「(つ、貫くものじゃないだろ…)」
「キャサリン、焦ることはありません。お部屋のほうへ向かうとしましょう。ヒッヒッヒ…」
「あぁあぁあああ早く思い切り血を吸い上げたいわぁあ」
「あくまで健康診断でございますぞ」



そうして二人は部屋から出て行ったが、俺はその場からしばらく動くことができなかった。




20120103



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