グレゴリーに言われた通り、俺は朝食を摂るため食堂へ向かった。
不思議と腹が減っていて、何も食べていないことを思い出したら腹が減るなんて、随分都合の良い身体になったな、なんて思いながら俺は廊下を歩いた。

食堂にはグレゴリーがいて、俺のために席を確保しておいてくれたのか「お客様、こちらのお席へどうぞ」と言いながら椅子を引いてくれた。
俺の他には客はおらず、怪しい雰囲気に包まれた食堂は一層暗みを増す。

すると、グレゴリーが食堂の奥からトレーに乗った料理を運んできた。だが、その料理を見た瞬間…俺は凍りついた。


「お客様、こちらは当ホテル自慢のシェフが一週間じっくり煮込んだスープでございます」
「ス、スープ…?こ、これが…?」

グレゴリーに差し出されたスープ。…スープ、と正直形容したくない色をしていた。
これは…何色といえば良いんだ?濁ったピンク、というか…ドロドロした気持ち悪い液体が、皿の中でグツグツと煮立っていた。悪臭もするし、最悪だ。


「お客様?どうかなさいましたか」
「いや、…お腹…すいてない、というか…食べる気がしない、というか…」
「ええっ?食べる気がしない?…そんな、…アーッ、…お客様、そんな言葉がもしシェフの耳に入ったら…」


大げさに驚いて見せたグレゴリーは、俺の目の前に置かれた例のスープ(仮)を持って奥へ向かおうとする。
ぎょろぎょろと動く目玉は俺を見たり厨房を見たりを繰り返す。まるで、何かを待っているように、何かを期待しているように。…ああ、なんだか嫌な予感がしてきた。


「…一週間前、同じようなことを申していたお客様がおりました。金の差し歯が印象的なお客様でした」


ギシ、ギシ、ギシ…
重たい何かの足音が聞こえてきた。ギシ、ギシ…、薄暗い食堂の奥が、何故か明るくなる。


「その言葉をシェフが聞いていたのでございます。…その夜を境にお客様は姿を消してしまわれました。あ、もちろん…偶然でございます…ヒッヒッヒ」
「っ!!」


怪しく笑うグレゴリーの真後ろに、どでかい包丁を持った、ロウソクがいた。蝋燭はシェフが着るような服を着ていたので、一発でこのスープを作った張本人なのだと分かった。ロウソクの目は真っ赤に光っていて、同じように持っているどでかい包丁もギラリと光った。…その、金の差し歯が印象的「だった」客は、きっとあの包丁で…!


「そ、そのスープ飲みます!」
「ほぉ!お食べになりたいと!」


俺がそう言うと、グレゴリーはさも驚いたような表情をして、それからまたニヤリと笑った。
乗せられてるが命は惜しい。俺はグレゴリーから受け取ったスプーンで、煮立ったスープをすくい、一口、口の中に運んだ。


「っ〜〜〜〜!!」


やばい。やばいやばいやばいやばい。これはやばい。
生臭いというか、デロデロというか、ああ、もう例えるものがないくらいマズい。いや、マズいの域を超えている。円堂監督のお嫁さんの料理も超えているほどのマズさだった。

だけど、包丁で滅多切りにされたくない。俺は、苦しみながらスプーンを口に運ぶ。


「いかがでございましょう?良いダシが出ている筈でございます」


ガリッ



スープを口に運んでいた俺。飲み込もうとしたら、何かがつっかえて、驚いて吐き出してしまった。
だが、それを見た瞬間…俺は凍りついた。


「なにせ、一週間たっぷり煮込んでありますからねぇ」



吐き出したものは、吐き出したものは、吐き出したものは…



「…一週間前、同じようなことを申していたお客様がおりました。金の差し歯が印象的なお客様でした」






金歯、だった。






20111119




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