彼女から教えてもらった「ネコゾンビ」という存在。
ネコの…ゾンビ。聞いただけで、鳥肌が立つ名前。ネコゾンビは俺の部屋の隣の硬い鉄の扉の中で、鎖につながれていた。そしてなんと、目や口が糸で縫いつけられたのだ。俺は身の毛もよだつ光景に驚きつつも、ネコゾンビから目が離せなかった。


「ニャ…?君はもしかして、昨日隣にきた人ニャ?」

大きな鍵穴から覗いていると、気付かれたのかネコゾンビに話しかけられた。
俺がどう答えようか迷っていると、ネコゾンビが再び喋りだす。


「キミに話があるニャ、…そこの扉の鍵は開いているニャ」
「…あ、…」


初めは躊躇していたが、俺は名前さんに言われたことを思い出す。
ネコゾンビに会うと良い。…名前さんが言うのなら、そうなのだろう。…ははっ、おかしいな。彼女とは初めて会ったのに、何故か信じられるんだ。
俺がネコゾンビの部屋に入ると、そこはまるで牢獄のような場所だった。俺がグレゴリーに案内された部屋とは天と地の差。ここはホテルなんだろう?何故こんな部屋が普通の部屋と並んで位置しているんだ?

とにかく、ネコゾンビと話をするために俺は扉を開けた。
中に入ると、ネコゾンビは立ち上がって俺のほうを見てくる。俺は…、情けないことに脚が震えていた。やっぱり、縫われている。耳も口も手の身体も全て、縫いつけられていた。誰が、こんな惨いことを…。


「僕は、ネコゾンビっていうニャ。…キミは僕のことが、怖いニャ?」

俺の考えていることが読めたのか、そう聞いてくるネコゾンビに慌てて首を横に振ると、「同情はやめてくれ」と言われてしまった。


「…ごめん。……俺は、霧野、蘭丸だ」
「…キリノ、このホテルの宿泊客たちがキミを永遠にホテルの中に閉じ込めようと企んでいるニャ」
「え、…ちょ、ちょっと待ってくれ。ど、どういう事だ?宿泊客が、なんで…」
「宿泊客……逃げられない苦しみから逃れるために、このグレゴリーハウスで永遠にさまようことを選んだ人たちの事ニャ。みんな他人が苦しむ顔を見るのが好きだから、君も気をつけるニャ」
「永遠にさまようことを選んだって…」
「だから、キミもそうならないために早く現実へ戻るニャ」
「現実…こ、こは…現実じゃないのか?」


自分でそう聞いたが、人に聞かなくても簡単に答えが出てくるだろう。
目の前にいるネコゾンビもそうだが、このホテルの支配人のグレゴリー…とてもじゃないが人間とは思えない。

もしかしたらこれは夢なのかもしれない。なんだ、心配して損したじゃないか。


「これは夢じゃないニャ。現に…」

ネコゾンビが俺に近づいてきて、俺の拳に爪を立てる。するとチクリとした痛みと共に、一筋の赤い線が流れる。


「っ…!」
「現を抜かしていると大変なことになるニャ。これは、現実でもないし夢でもないニャ。キミが何故ここに来たのか僕にはわからないニャ。だけど、一刻も早く現実に戻るニャ」
「でも、どうやって…」
「キミがここに来た理由をきちんと理解して、断ち切れたら…きっと戻れるニャ」
「ここに来た理由って…そんなの、知るかよ」
「…僕にはわからないニャ。とにかく、一度自分で考えてみることが大切ニャ」


一度に色々な情報が入り、頭がパンクしそうだ。
とにかく、俺はここから逃げないといけないことは分かった。



「ネコゾンビは、何で味方をしてくれるんだ…?」
「…僕は、もう見たくないだけニャ。さまよって、このホテルで朽ちていく魂を…」
「……名前さんも、そうなのかな」
「名前?それは、誰のことニャ?」
「え…、ここの宿泊客だろう?ほら、俺くらいの歳の女の子で…」
「そんなヒト、知らないニャ」



それ以降、興味がなくなったのかネコゾンビは座り込み、ひたすら「お腹すいたニャ」と繰り返し続けた。
俺はとりあえず部屋に帰ることにした。…ネコゾンビは名前さんを知らない?…まあ、所詮はホテルの宿泊客(ネコゾンビが宿泊客なのかは知らないが)だし、お互いが絶対に顔見知りという事は…ないか。




20111109




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