「お客様、このお部屋をお使いください」

老鼠に案内されたのは、205号室だった。老鼠に続いて部屋の中に入る。部屋の中は簡易なベッド、チェア、小さな机にタンス、そして電気の代わりに蝋燭が一本置いてあった。廊下を歩いている時も思ったのだが、どうやらグレゴリーハウスとやらには電気が通っていないらしい。…どんだけ山奥なんだよ…。

すると老鼠はドアまで近づき、再び振り返って俺のほうを見てくる。濁った瞳をぎょろぎょろと動かし、頭を下げる。


「申遅れました、私…支配人のグレゴリーと申します。御用が御座いましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。…それでは、よいご滞在を………………永遠に」
「え…」

俺が聞き返すと、老鼠…グレゴリーは笑いながら去って行ってしまった。
彼が最後に言った言葉、…永遠に…。…これは、どういう意味なのだろうか…?そのままの意味として受け取ったほうが良いのだろうか。

…だとしたら、ここにいるのは危ないのかもしれない。…だが俺の考えとは裏腹に、俺の体はゆっくりとベッドに倒れこんだ。非現実的なことが怒り、頭が混乱して体が悲鳴をあげている。逃げなくては…、そう思っているのに…俺の思考は深い深い眠りの泉へと沈んでいった。













コンコン


俺は、控えめなノック音で目を覚ます。…どうやら昨晩の出来事は夢ではなかったみたいだ。
ゆらゆらと揺れる蝋燭を見て、ため息を吐く。…すると再びノック音が響いた。

グレゴリーさんかな、と思いドアを開けると、知らない女の子がニコニコ笑いながらドアの前に立っていた。


「君…は?」
「私は名前、ここの2階に住んでるの。よろしくね」


わざわざ挨拶をしに来てくれたのだろうか?良い子だな。…そう思い、差し出された彼女の手を握る。彼女の手は氷のように冷たかった。
反射的に手を離すと、彼女は少しだけ悲しそうに笑った。


「ごめんなさい、少し冷え性なの」
「こ、こっちこそ…ごめん。…あ、俺は霧野蘭丸。…よろしく」
「うん、よろしく霧野くん。…そうだ、少しお話があるんだけど…良いかな?」
「あ、ああ…」
「あまり他の人に聞かれたくない話なの。…中に入れてもらってもいいかな?」

そう言って、廊下を気にする彼女。すると、ペタペタと足音が聞こえてきた。もちろん、俺のでも名前さんのものでもない。
俺はすぐに彼女を部屋に招き入れると、ドアを閉めた。


ぺたぺたぺたぺた…このドアの前を行ったりきたり、そして薄らと聞こえる女の子の声。「私のお人形はどこ、どこ?私のお人形はどこ…?どこなの?」ヒステリックな声で、そればかりを繰り返す。俺はその声の主が少しだけ気になり、ドアについている鍵穴を覗こうとしたのだが、名前さんに止められてしまった。


「ここでは、興味本位で何かをしては駄目よ」
「…え」
「……霧野くん、私はあなたに伝えないといけないことがあって、この部屋に来たの」
「伝えないといけない、こと?」
「あなたは、ここにいてはいけない」
「…え」
「…とりあえず、ネコゾンビに会うといいわ。この部屋の隣に住んでいるから」
「ネコ、ゾンビ…?」
「…また会いましょう」


にこりと微笑んだ彼女、どこか懐かしいと感じたのは何故だろう。




20111106




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テーマ「人外ファンタジー」
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