大事な人と2人

1台のトラックが突っ込む

茫然と立ち尽くす

血が自分に飛び散り


あまりの絶望に…俺は…おれ、は…








先ほど審判小僧に問われた質問について思い出していた。
…まったく知らないことのはずなのに、何故か引っかかる。…何かを思い出しそうで、思い出せない…。不愉快だ。

廊下の隅に座り、壁にもたれかかる。…はあ、一体全体…どうしたらいいんだよ。


「どうかしましたかぁ〜?」
「!!?」

いきなり、知らない男の間延びした声が響いたので、慌てて立ち上がる。
そして後ろを振り返る、…と……っ!!!!???

言葉を失ってしまった。…それくらい、恐ろしい…恐ろしい、犬だった。なんせ…


「(あ、頭に…青龍刀が刺さってる…)」

見た目はとても可愛らしい犬なのだが、全身には包帯が巻かれていて、頭のてっぺんには先ほども言ったように青龍刀が刺さっている。そしてそこからは大量の血が流れていた。
そんな…犬は俺の顔を覗き込み、そして首を傾げている。


「顔色が悪いようですが、大丈夫ですかぁ?」
「あ、…は、はい」

頭に青龍刀が刺さってる奴に心配されるなんて…、なんだかよく分からない状況だ。ホント、なんなんだこのホテルは。


「ご病気か何かですかねぇ?いやぁ、私も病気がちでいつも頭痛に悩まされてるんです」
「は、はぁ…(頭痛……その頭に刺さったソレが原因だろ、どう考えても…)」
「お父ちゃーん!」
「おお、坊や」
「!!?」


次に現れたのは青龍刀の犬よりも小さな子犬だった。どうやらこの2人?2匹?は親子らしい。一見ほほえましい犬の親子だが、…この子犬も父親と同様…包帯血まみれで、唯一父親と違うところといったら、頭に刺さった斧だ。


「このお兄ちゃんどうしたの?」
「いやぁ、元気が無さそうでねぇ。ご病気なのかもしれませんねぇ」
「病気?お兄ちゃん大丈夫?実は僕も頭がズキズキするんだ。風邪ひいたのかなぁ〜?」

だから、もっと根本的な問題があると思うんだが…。
…とにかく、こいつらは審判小僧と同じく、比較的無害なのかもしれない。まあ、できれば長い間一緒にいたくはないが。…そう思って、この2匹の体調不良自慢を聞き流していた時だった。父親の…ミイラパパのほうが、ポンっと何か思いついたように手をたたいた。


「そうだぁ、私たちの知り合いの看護婦さんがいるのですが、よろしければ紹介しましょうかぁ?とても美人で気さくな方なんですよぉ、きっとアナタのご病気もすーぐ治りますなぁ!」
「お父ちゃん優しいね!そうだよ、お兄ちゃん!看てもらうべきだよ!」


…看護婦。
ああ、嫌な予感しかしなかった。俺の脳裏によみがえるのは、あのピンクの爬虫類。巨大注射器。
何が比較的無害だ。コイツらも俺のことを苦しめようと…。はぁ。

俺は2匹の言葉を無視して、自分の部屋へと走りはじめる。そして、部屋のドアを開けると、固いベッドの上に倒れこんだ。



「はぁ、はぁ…っ、はぁ…」


息を整えながら、何故か俺は名前さんの顔を思い出した。
そういえば…グレゴリーやあの看護婦、審判小僧…先ほどの犬、ネコゾンビ…みんなヒトの形を成していないのに…。



「名前さんだけは…ヒト…だよな」



20120610




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