私とクレインの出会いは、おとぎ話のように面白くもなければ、恋愛小説のようにロマンチックでもなく、冒険小説のようにドキドキハラハラしたものでもなく、いたって普通の出来事だった。

今から18年前…6歳の頃、カラハ・シャールの商人の娘である私は父の手伝いで陶器が入った箱を広場まで運んでいた。
何でもカラハ・シャールの領主の娘さんが生まれたそうで、ア・ジュールの名のある陶芸家の作った作品を娘さんに贈るために領主が注文したものがこの箱に入っているらしい。父と共にシャール邸まで運び、父が執事の人に渡している時だった。美しいヴァイオリンの音色が風にのって聞こえてきた。

音が聞こえてくるほうに目線を向けると、テラスに金髪の綺麗な男の子がいた。その子はヴァイオリンを持っていたので、彼が演奏していることが分かった。
すると、演奏する手を止めて、彼がこちらに視線を向けた。交じり合った視線、何故か逸らすことはできなかった。すると、彼がふわりと笑う。それにつられて、私も笑った。何故だか、胸がドキドキした。


彼はカラハ・シャールの領主の息子、クレイン様だった。




お話してみたい、そう思ったけどそれは簡単なことではなかった。
商人の娘と領主の息子、当然接点なんて何も無い。領主邸に行くなんて事、出来ないし…半ば諦めかけていた時だった。

「これはいくらですか?」

露店でお店番をしている時だった。
凛とした声に頭を上げると、微笑むクレイン様の姿。彼が持っているのは、可愛らしいお花のペンダント。


「…あ、あ…50ガルドです…!」
「爺、頼むよ」
「畏まりました」

執事らしき人からガルドを受け取り、お花のペンダントを包装する。
するとクレイン様から声をかけられた。

「君…この前領主邸に来ていたよね」
「は、はい」
「僕はクレイン。君は?」
「私は名前…です」
「名前か、綺麗な名前だね」
「そ、そんな事…ないです…」
「敬語なんていらないよ、僕たち…同い年くらいじゃないのかな?」
「で、でも…」
「いいんだよ、僕…君とお話してみたかったんだ。…友達になりたくて」
「え…」
「駄目かな」
「そ、そんなことないです…わ、私もお話、してみたかったです」
「じゃあ敬語はなし。僕らは友達だから」
「…う、うん…」

私がそう言うと、クレインは優しく笑った。
それから、クレインは3日に1回のペースで露店を訪れた。何度も何度もお話して、時々クレインのお部屋で遊んだり、シャール邸のお庭で遊んだり、彼の妹のドロッセルと遊んだり…だけど、それは子供だから許されることだった。

15を過ぎたとき、私はシャール邸に入るのを禁じられた。クレインと会う回数も減らされた。何故ならば、私が女であり一般庶民の娘だからだ。
でもそれは当然だった。クレインは次期領主、今の領主は病気がちでいつクレインが領主なってもおかしくはない状況。私たちが「馬鹿」な真似をしないようにするための、シャール家と私の親の作戦…といったところか。

だけど、既にその頃には私とクレインの間には愛が芽生えていた。






私たちは互いの家を抜け出して、風車の下で夜な夜な密会をしていた。
愛を囁きあい、愛を確かめあって私たちは暗闇の中お互いの名前を何度も何度も呼んだ。だけど、その生活に耐えられなくなった私たちは行動を起こした。

お互いの両親を説得し、クレインは領主の心得を学び、私は貴族作法を死ぬ気で勉強して…
そして19になった時…私たちは結ばれた。反対する者もいたが、私たちは2人でそれに立ち向っていくことを決めたのだ。1年後に子供が生まれ、それからまた1年後に、クレインが領主となり、カラハ・シャールは新たな歴史を刻み始めた。




私は、彼の隣に立つことを決めたんだ。それは強くあることを自ら望んだということなのだ。
これから先、色々なことが待ち受けていると思う。だけど、私は強くあるのだ。…どんな時も、強くあるのだ。






20111009





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