ぽたぽた滴る髪を乾かしながら部室へ向かうと、神童から「遅いぞ!」とお叱りを受けてしまった。くそう。
謝りながらマネージャーたちがいる近く席に座る。


「名前ちゃんどうしたの、びっしゃこ…」
「ああ…突然雨が降ってきてさ」
「え、雨?今日は良いお天気だったよ?」
「…わ、私の上だけ大雨警報が…」
「??」
「半田、遅れてきた上にお喋りとは良いご身分だな」
「ご、ごめんよ…」


神童辛辣。…というか、遅れてきた原因はあのお方なんだって…。
そっと目線を速水さまのほうへずらすと、速水さまもこちらを見ていたみたいで、ガッチリと視線が合った。ひ、ひえええええ!

何か視線で攻撃されるのではないかと思い、身構えていたのだが…。何故か速水さまは不機嫌そうに私から視線を離した。…あ、あれ?今の反応、何か変。
速水さまの反応に戸惑いながらも、始まったミーティングに集中することにした。







ミーティングが終わって、マネージャーのみんなと共にグラウンドへ向かおうとすると、誰かに腕を引かれた。
何だろうと思い振り返ると…、は、ははははははは速水さまあああっ!

急いで振り返り、姿勢を正す。すると、私がついてこなかったのを不思議に思ったマネの皆が振り返ってきた。


「名前ちゃん?どうしたの?」
「あ、あ…えーっと、その…」
「そ…その、半田さんに少しお話があって…」
「そっか、じゃあ私たち先に行ってるよ?」
「お、おう!」
「(おう?)…じゃあまた後でね、名前ちゃん」


マネージャーの皆が去ると、八の時になっていた眉毛をピクリと動かし、目付きを変える速水さま。…や、やっぱり怒っていらっしゃる…な、何故?


「名前」
「は、はい…」
「神童くんに罵られるなんて…、誰が許可しましたか?」
「(あ、ああ…あれか)…し、していただきませんでした…誰にも」
「はあ…、全く。見ていて本当にイライラしました」
「(そんなこと言われても…。というか、元はと言えば速水さまのおしおきが原因で遅れたんじゃん…)」
「…なんです、その目は。反抗的ですね」
「は…」
「はあ…まったく。…誰のものか周りに分からせる必要がありますね…
「へ…っ、!」


いきなり物凄い力で(その細い体のどこにそんな力があるんだ)速水さまに壁際に押し付けられる。
そして、首筋に顔を寄せて…っ!!!!

チクリと痛む首筋、すぐに離れる速水さま…。え、えっと…これは何?

困惑する私を尻目に、速水さまはその場から立ち去ってしまった。…え、えーっと。
ま、まあとりあえず…、何も言われなかったということは…もう、許してもらえた…のかな?








マネージャーの皆の下へ戻ると、葵ちゃんが不思議そうな顔をして私を見ていた。


「ん?どうしたの、葵ちゃん」
「名前先輩、首…虫に刺されてますよ?」
「え、嘘…!ど、どこ?」
「待ってくださいね、鏡…あ、あった。はい、どうぞ」
「ありがとー。えーっと…」


葵ちゃんに貸してもらった鏡を見ながら、首筋をチェックする。畜生虫め、私の首筋を噛むなんて十年早…あ、あれ?
首筋の赤い場所…こ、ここって…


「っ!!!」
「先輩?どうかしましたか?」


こ、これ虫刺されじゃない…。ま、まさかさっき速水さまが近づいてきたのって…こ、これを残す、ため?
前言撤回。む、虫さまめ、私の首筋…い、いつでも噛んで…って、そんなこと言ったらドMじゃんかよ!




20110902




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -