「それでね、その後髪を掴まれてね…それで、ううっ…」
「泣くな名前っ!ううっ、お前の話を聞くことしか出来ない無能な兄を許してくれっ!」
「お兄ちゃぁぁあああんっ!」
「名前!!!!」
「(だきっ!)…うわ、くさいお兄ちゃん」
「酷いッ!」


私のお兄ちゃん、半田真一。24歳のさえない会社員。
お兄ちゃんも雷門中のサッカー部だったらしいんだけど、大した活躍も無い普通の選手だったらしい。それは、きっと血筋のせいなのだと私は思う。

半田家は「普通」の子しか生まれない血筋なんだよ、きっと。お兄ちゃんも中途半田ってからかわれていたらしいし。
…でも、私ね…時々むなしくなるんだ。

自分と同じ普通なお兄ちゃんが大人になるまでをずっと見てきたから、ああ、自分もこんな風に人生を歩んでいくのかって思ってさ。
お兄ちゃんの成長を見るのは、自分の未来を見ているようで…ね。ウン。

まあ、さっきからお兄ちゃんに散々言ってるから、勘違いされるといけないから一応言っておくけど、お兄ちゃんのことは大好きです。




「いやあ、それにしても…」

お兄ちゃんが懐かしそうに目を細めながら笑う。


「?」
「何だか懐かしいと思ってさ…」
「懐かしい?」
「俺もな、中学の頃…マックスって超ドSのヤツに弄られてさ…」


ああ、ドSに弄られるのも血筋だったか。つーかマックスって、外国人?












翌日、朝練に向かうと超笑顔な速水さまが待ち構えていた。
すぐに私は90度に腰を折り、挨拶をする。


「遅いじゃないですか」
「…え、でもまだ7時前…」
「は?」
「な、なんでもございません!」
「じゃあさっさとやりましょうか」
「…え?な、何を…」
「あなた馬鹿ですか?昨日おしおきするって言いましたよね、俺」
「(ゲッ、あれマジだったの…?)」


水道上まで連れて行っていただいて髪を引っ張っていただきながら水を最大で出していただき、私の頭にかけていただくやつ…だよね?
ひ、ひえええ…マジかよ!マジでやんのかよ!

なんて一人で顔を青くしている間に速水さまに引っ張られてやってきたのは水道場。
髪を引っ張られながらコンクリで作られた水道場に顔を押し付けられ、そして上から最大出力で吐き出された水。水しぶきを立てて私の頭に降り注いでくるそれは、地味に高い攻撃力を持っていて…


「い、痛い痛い地味に痛い!」
「……」
「(な、何で無言なの速水さま…)」


しばらく私に水をかけた後、速水さまは私の髪の毛を引っ張りながら、自分のほうへ顔を向けさせる。


「…は、速水さま?」
「……お似合いですよ」


ニコリと微笑まれながら、棘が刺さった言葉を私に浴びさせる速水さま。きゅんっと胸が跳ねる。



…。


…。


…。



…ああ、そうだよ悪いか。
私は速水さまが好きなんだよ悪いか。

だからこうして虐げられても笑っていられるんだよ特別扱いが嬉しいなんて…思ってるよ畜生!
でも決してドMなわけではないからね!速水さまだから嬉しいんだからね!




20110901



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