涙で視界が歪む



蘇るのは君との思い出





薄っぺらい筈の偽りのそれの中にいる自分はそれでも生き生きとしていて






俺の心は暗闇へと沈んでいく














小さい何かに腕を掴まれる。振り返ると、息のあがった名前…、……半田さんだった。
ここは外なのに、彼女は中履きのまま出てきたみたいで、その先っぽには少しだけ土が付着していた。

振り払うことが出来ないその細い手に、俺は少しだけ困惑した。


「放して、もらえませんか?」
「…っ、駄目!」
「…」
「…駄目、なの」


ぎゅっと、俺の手に力をこめる半田さん。俺は何だか心の中がめちゃくちゃに掻き乱されて、悲しくなって、ついには涙が出てきてしまった。
情けなく嗚咽を漏らしながら、彼女に握られているのとは反対の手をメガネの下に伸ばす。次々と溢れる涙に、手もすっかり濡れてしまって、頬も濡れて、顎を伝っていく雫。

それをすくったのは半田さんの反対側の手だった。


「鶴正、…鶴正…」


俺の名前をひたすら呼ぶ半田さん。俺は答えられない。口から漏れるのは嗚咽だけだった。


「ごめんね、ごめん、鶴正…ごめん」



なんで、君が謝るんですか。謝らないといけないのは、俺なのに


彼女の綺麗な瞳から、俺と同じように涙が流れる



「たくさん、鶴正のこと…傷つけてごめんね、…鶴正のこと、好きなのに、ごめんね」
「お、れ…は、駄目な、うっ、や…つで、半田さんと、俺は、ち、ちが、い…すぎて、俺なんかが、半田さん、にっ…俺なんかが…半田さんに近づいちゃ、駄目だったん…だ。ひどい、こともたくさんして、傷つけて、だま、して…っ、ふ、うっ、」
「騙してなんて、ないよ。私、知ってるよ、どっちも鶴正だって、知ってるよ。ネガティブな鶴正も、ちょっと意地悪な鶴正も、どっちも、大好きだよ、知ってるよ、だから、自分を否定してないで」



自分を否定しないで


彼女のその言葉を、俺は心の中で反復する。
どっちも、俺。どっちも…俺…?酷い俺も、ネガティブな俺も、どっちも、俺…?

わからない、わからない…。俺は、俯き、それからゆっくりと彼女を見る。



「どっちも、俺なら…どうしたらいいの…?」
「…そのままの、鶴正で…いいの」


彼女の瞳が優しく揺れた。





20111109




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