そう、俺は朝から酒を飲んでいた。ヤケ酒というヤツだ。上司に理不尽な説教されて残業やって帰ったら夜中。というより明け方で。やってらんねぇよ!ってコトで寝ずに酒飲んでたら妹の彼氏来てなんかワケわかんねぇコト言っちまったなあ…なんて反省してたら母さんにウコンのラチカ渡されてとりあえず飲んでTV観ながらぼーっとしてた時のことだった、うん確か。

妹の彼氏が物凄い勢いで半田家から出て行った。なんというか、尋常じゃないスピードだった。さすが現役雷門サッカー部。
そのすぐ後に妹がバタバタと階段を降りてきて、俺に「速水くんは?」と聞いた、ので物凄いスピードで出ていったぞ、と言うと妹はその場にへたへたと座り込んだ。


「何かあったのか…?」
「…あー…、何もない」


だが、明らかに何もないという顔をしていない名前。
…妙に焦っている名前に、尋常じゃないスピードで出て行った速水くん…。もしかして。


「喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩…なのかなあ…」

何だか腑に落ちない様子の名前に疑問を持ちながら、俺は手元にあるウコンのラチカを飲み干した。








次の日、俺が帰ると妹がソファで横になっていた。
確かテストだったんだよな、こいつの苦手な数学の。…撃沈したのか、乙。

とりあえず着替えようと思い、自分の部屋に向かう。スーツを脱いでジャージを着て、それから携帯を持ってリビングへ向かうと、妹はまだソファの上でぐだっとしていた。さすがに心配になり覗き込むと、どんよりとした表情で「お兄ちゃんお帰り」と言われた。おいおい大丈夫かよ。


「数学のテスト、撃沈したのか?」
「…それも、まあ…あるけど」
「?…他にも何かあるのか?」
「……」

口を閉ざして俯く名前。細い肩は少しだけ震えていた。


「お兄ちゃん、私…鶴正さまに、嫌われちゃったのかなあ…」









それから、俺は妹から昨日起こった事を全部聞いた。
突然速水くんに襲われて、わけがわからなくなった名前は泣いてしまって、それを見た瞬間速水くんは逃げ出した…という事で、良いのだろうか。つーか、いまどきの中学生…進みすぎだろ。
それでまあ、次の日…、今日だ。学校で速水くんに話しかけたら無視された、らしい。


「私…あの時ビックリしちゃって…、泣いちゃって…。だから、かな?…泣いたから、愛想つかされたのかな?」
「泣いたから、愛想つかされたって…」

それって、ただ避けられてるだけなんじゃねぇの?襲ったはいいが、泣かれてしまい、気まずくて避けてんじゃないのかな?
そう言うと、妹はふるふると頭を振る。


「それとも、私に…魅力がなかったのかな」
「…え、」
「だ、って…鶴正さま、胸を触った後に…っ、や、止めた…からっ、期待はずれ、って思ったのかな?」
「…名前」
「私、と鶴正さまじゃ、やっぱり違いすぎたのかな、?私は、普通…で、鶴正さまは、すごい、から…、やっぱり、無理だったのかな?」
「名前」
「…っ」

少し強めの声で呼ぶと、名前はソファから起き上がった。その目は少しだけ腫れていて、溢れる涙を優しく指ですくう。


「速水くんに理由を聞いてみろ」
「む、りだよぅ…、きっと相手にしてくんない」
「じゃあ泣くな。それからもうウダウダ言うなよ」
「それも、無理だよぅ」
「…じゃあ何か行動を起こさないと。好きなんだろ?速水くんのこと」
「…好き」
「普通とか、そんなの関係ない。やるか、やらないか…それで変わるんだからさ」


やるか、やらないか。それで、俺の人生は変わった気がする。
今はしがないサラリーマンだけど、俺はあの時中学で本気で何かに打ち込むという事を覚えたから、今の俺があるって思ってるし。あのままぐだぐだ遊んでいたら、会社になんて就職できてなかったと思う。たとえ就職できたとしても、嫌なことがあったらすぐに辞めていたと思う。

「普通」という言葉で片付けるのは良くないぞ?…だから、がんばれ。


「…そう、だよね。鶴正さまの事、好き…だから、このままは嫌だ。…聞くのは、ちょっと怖いけど…でも、私…明日、勇気を出して聞いてみる」


ありがとう、お兄ちゃん!

そう言って去っていく妹。少し前までオシメしてたのになあ…、時が経つのは早いなあホント。
成長していく妹の姿を見て、少しだけ複雑になったが、でも何だか嬉しくて。わけのわからねぇ矛盾した思いに一人笑って、冷蔵庫からビールを取り出して口をつけた。…ん、そういえば。


速水くんのこと、鶴正さまって…呼んでいたよな、名前。
さま、って…。

妹に変な趣味があるのではないかと、少しだけ不安になった半田真一なのであった。




20111105




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