初めて訪れた彼女の部屋。ピンクで統一されていて、女の子らしい部屋。…彼女のにおいが広がって、とても心地よかった。
だけど、高鳴る胸とは裏腹に俺の頭は先ほどの彼女の兄の言った言葉で染まっていた。

彼女の部屋にいる、というだけで頭がこんがらがりそうなのに…そんな直接的な言葉を言われてしまったら…困る。
こんな俺でも一応中学生男子。当然、そういうことにだって興味はある。…ある、けど…。チラリと彼女の方を向く。自然と、その…顔より下のほうに目が行ってしまって、慌てて逸らす。…はあ。

俺たちはまだ中学生だし、そういう事をするにはまだ早いし…。だけど、興味だってあるし…。いや、そもそも今日は勉強をしに来たんだ。おかしな考えは捨てるんだ、俺。
…俺の言葉にショックを受けている彼女の腕を掴んで、部屋の中央にある机まで引きずっていく。そして可愛らしいクッションの上に座ると、持ってきていた鞄を開けて数学の参考書を取り出す。できるだけ自然に、演じるんだ。平静を装うんだ、偽るのは、得意だろう…?


そんな俺の様子を見て、彼女も慌てて指定カバンからノートと教科書を取り出して俺の隣にちょこんと腰かける。それと同時に部屋のドアをノックする音が。



「名前、お菓子持ってきたわよ」
「あ、うん」

ガチャリと音を立てて開いたドア。名前のお母さんがトレーを持って立っていた。
ああ、そうだ。…駄目だ駄目だ、この家には俺たちの他に彼女の母親と兄がいるんだ。変な気を起こしてはいけない。…ふ、2人だけなら良いとかそういう問題でもないですけどね!…、はあ。こんなことばかり考える自分が、本当に嫌だ。

じゃあごゆっくり〜、そう言って部屋を去っていった名前の母親。正直、「ごゆっくり」できるほど俺の心は落ち着いていなかった。
母親から受け取ったトレーを勉強机に置いた名前は、「オ、オレンジジュースお好きですか?」なんて言いながら恐る恐る俺にグラスを差し出した。…本当の彼氏彼女って、一体なんなんだろうか。

こんな関係になってしまったのは、十中八九俺が悪い。あの時、感情に流されずにきちんと対応できていれば…さま付けだって、敬語だって…ありえなかった。
だけど、こういう関係になったのは…俺が「演じた」お陰でもある。酷い俺の力を借りなければ、俺は彼女に話しかけることすら出来ていなかったと思う。


…そう、彼女と話すようになったのは、俺が演じてからだ。
それ以前はまともに話をしたことがなかったのだ。ということは、彼女はこんな情けない奴が本当の俺だという事を知らないということなんだだ。…彼女が好きなのは、偽りの俺なんだ。


そう思うと、スッと胸が冷たくなった。



気まずそうにノートを開いた彼女の腕を掴む。すると彼女は驚きながら俺の名前を呼んだ。鶴正「さま」と。
その瞬間、胸に重く圧し掛かる何か。気付けば俺は彼女を床に押し付けていた。


「…え、つ、鶴正さ…」
「……」
「な、なに…」


嫉妬だ



俺は自分に嫉妬しているんだ





彼女の腕を固定して、それからすぐに唇に食らいついた。齧り付くように何度も口付け、隙を見て舌を入れる。戸惑い逃げる舌を追いかけて絡めとると、彼女の可愛らしい部屋に似つかわしくない水音が響き渡る。


「んっ、ん…っ、だ、め」
「っ…んっ」

彼女の唾液を啜り、唇を離す。すると糸が俺たちを繋いで、すぐに切れそうになる。俺は何だかそれが許せなくて、再び彼女の唇に食らいつく。
彼女の口から漏れる息に興奮しながら、俺は彼女の服の中に手を入れる。


「っ、鶴正さま、ひっ、や…っ!」
「……」

彼女の柔らかい肌を弄りながら性急に手を動かしていく。彼女は俺から逃れようと必死に体を動かすが、男女の力の差が歴然。俺の腕の中から逃れることは出来なかった。
彼女の体、唇…色めかしい吐息…。予想していたものよりも大分インパクトが強い。もっと触れたい、聴きたい、知りたい。鶴正さまも知らない、誰も、誰も誰も誰も知らない彼女を、俺が一番最初に知りたい。

一瞬だけ彼女の胸に手が触れた。その柔らかさに感動してもう一度、今度は拳全体で覆ってみようと手を伸ばした瞬間だった、……彼女の瞳から、ぼろりと涙が零れ落ちた。







その瞬間



俺の頭は真っ白に…なった。



















お、れは




一体、






俺は一体、何をしているんだ?







20111105




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テーマ「人外ファンタジー」
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