学期末テストが来週にまで迫っている。…という衝撃的事実に気付いたのは昨日のことであった。
恥ずかしながらリア充を満喫していた私は、授業なんてまともに聞いていなかったし、テスト勉強なんてしてもいなかった。イコール、私超ピンチ。

今までは授業ノートを取っていたし、分からないなりに一生懸命授業を聞いていたから平均点はとれていた。だが今回はどうだろう。
このままでは平均点が取れない。「誰よりも普通」という私のアイデンティティが無くなってしまう…!え、そういう問題じゃないって?…と、とにかくこのままではマズい。


そういうわけで、私は目の前の人物に頭を下げていた。
目の前の人物とは、他でもない…自分の彼氏の速水鶴正さまだった。

いきなり頭を下げてきた私に驚きながら、「一体どうしたんですか」と聞いてくださる鶴正さま。私は顔を上げて、学校指定の鞄からすすすっとノートを取り出した。



「勉強…教えていただけないでしょうか」












私が最も苦手としている科目…数学の試験が明日に迫った日曜日、私は自宅でそわそわしていた。
自分の部屋と玄関を行き来しては、既に掃除が行き届いている場所を入念にチェックし、物を動かしカーペットの角度を調節して…などなど、全く落ち着きがない。

玄関から部屋に戻った時だった。ピンポーンと玄関のチャイムの音が半田家に響き渡った。…!
私が急いで玄関に向かうと、お母さんが鶴正さまに挨拶をしている所に出くわした。


「つ、鶴正さ…っ!」
「…名前さん、こんにちは。…あの、これ…良かったら食べてください」
「あらあ、ありがとう速水くん!本当にかっこよくて良い子ねぇ…!名前には勿体無いわ!」
「ちょっとお母さんどっか行って!」
「はいはい。後でお菓子持っていくわね。じゃあ速水くん、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」


上機嫌に去っていったお母さん、きっと真面目で礼儀正しい鶴正さまを気に入ったのだろう。
私が鶴正さまに謝ると、「元気なお母さんですね」と返された。…ううっ、すみません。

すると空になったビールの缶を持ちながら、上下スエット髪ボサボサなお兄ちゃんが2階から降りて来た。…妙に酒くさい。…というか、ビール持ってんだから当たり前か。日曜の朝から飲んでるとか、なんなのコイツ。


「あれ、君名前の彼氏だよなー?この前見たぞー、家の前で名前のこと抱きしめてただろー?はー、いいねぇ青春ってやつ?」
「え、あ、あの…」
「俺なんて毎日会社行っては帰って行っては帰って…彼女だっていないし…あーあ、俺の青春は枯れちまったよぉおおおお」
「お、お兄ちゃん部屋に戻って!」
「なんだよぉ、つれないなあ…。今から部屋でエロいことするんだろぉ〜?知ってるぞぉ、君ってドSなんだろ?色々と名前を弄ってたらしいなあ。こいつナチュラルMだから喜んでるんじゃないのかあ?ハーッ、それにしてもガキが盛りやがってよぉ…俺なんて、俺なんてなあ」
「黙れ」
「ぐぇ」


お兄ちゃんは酔うと性質が悪くなる、だから沈ませるのが一番だ。お兄ちゃんを沈ませた後、私は鶴正さまの手を引いて一気に2階へと駆け上がった。
そして自室の中に入ると、ため息をつく。

最っ悪…、何てことしてくれたのよ半田真一!変なことばっかり言って、鶴正さまを困らせて…挙句の果てに…っ、え、えろ…とかMとかなんとか言って!最悪最悪最悪!お家デートなんて初めてだったから気合を入れていたのにぶち壊してくれやがって…!あとでマックスさんとやらを呼んでやる!



…そ、それよりも…。
私は恐る恐る鶴正さまを振り返る。…ぜ、絶対怒っていらっしゃるよね…。内心ビクビクしながら振り返ると、意外なことに鶴正さまは怒ってはいなかった。…そう、怒っては。

複雑そうに揺れる瞳に、キツく結ばれた唇。目線はカーペットに向いている。
私と付き合い始めてから、よくこんな表情をするようになった鶴正さま。馬鹿な私は、これが何を意味しているのかは分からない。



「つ、鶴正さま…」
「…な、なんですか?」
「その…兄がすみませんでした」
「いや、だ、大丈夫ですよ。そ、それより部屋…ピンク一色ですね」
「え、あ、はい」
「面白いくらい似合っていませんね」
「酷いッ!」




20111029



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