そんなこんなで、付き合ってから初めてのデートの日がやってきた。
この日のために雑誌を読み漁って、デート用の服を決めたり、少しだけ化粧の勉強をしたり…。どうどう?彼氏のために頑張る努力家な彼女!すっごく女子力が高い気がしない?…え?自分で言っているようじゃ、まだまだ?うっ、うるせーやい!

待ち合わせ場所に着くと、鶴正さまはもうそこにいた。私はすぐに彼に駆け寄って頭を下げた。


「お、お待たせしてすみません!」
「…本当ですよ、俺を待たせるなんて100年…。…いや、まあ…待ち合わせ5分前…ですし、今回は許してあげましょう」
「へ…?」
「…っ、早く行きますよ」


まるで照れ隠しをしているように、真っ赤な顔で私の腕を掴みそのまま歩いていく鶴正さま。
私は、そんな彼に手を引かれながら少しだけ呆気にとられていた。あ、あの鶴正さまが…何のお咎めもなく…許してくれた…?

過去に起こった事から分析すると、100年…の後に続く台詞は、「早いですよ、ついでに俺と出かけるのなんて300年早いんですよ。(ここで頬を思い切り抓る)痛いですか?痛いですよねぇ?まあ、痛いようにしてるんですけど。これに懲りたら次は2時間前に来い」…だよねぇ…?

…ハッ!もしかして鶴正さまの彼女になったから「優しくしてあげる」というオプションが付いたのかもしれない…!
うわあ、うわあ!またまた改めて実感、やっぱり私…鶴正さまの彼女なんだ…!



「…機嫌、よさそうですね」
「え、あ…はいっ!鶴正さまとデートできるのが嬉しくって!」
…さま、か
「?すみません、聞こえなかったんですけど…」
「何も、言ってませんよ。あ、あそこのCDショップに行ってもいいですか?」
「あ、はい!」

CDショップに足を踏み入れるとすぐに私の手を離し、鶴正さまはそそくさとお目当てのアーティストのコーナーへ行ってしまった。
私も視聴が出来る場所で新曲を聴いてみたりしていたのだが、すぐに飽きてしまって。同じく視聴をしていた鶴正さまの横にぴたりと寄り添ってみた。

すると鶴正さまはヘッドフォンを首にかけて、少しだけ怪訝そうな顔で私を見る。



「どうしたんですか?」
「ん…なんか、鶴正さまの近くに居たくて」
「……そう、ですか」
「駄目…ですか?」
「別に…」


そう言うと、鶴正さまはまたヘッドフォンを耳に当てて音楽を聞き始めた。
鶴正さまはいつもどんな曲を聴いているのかな?好きなアーティストは誰なのかな?…あーあ、私鶴正さまの彼女なのに、彼が好きなもの…何も知らないや。

少しだけショボンとしていると、鶴正さまが再びヘッドフォンを外した。


「聴いて…みる?」
「え?」
「…結構いい曲ですし、聴いてみますか?」
「い、良いんですか?」
「な…んでそこまで喜ぶんです?」
「だって…へへっ、じゃあ聴いてみます」

鶴正さまからヘッドフォンを受け取り、耳に当てる。軽快なメロディーが流れて、透き通った女の人の声が耳を擽った。
サビを聴き終わったところで、速水さまにヘッドフォンを返す。


「どう、でしたか」
「すごく楽しい気分になれる曲ですね!ボーカルの人の声もとっても綺麗で…」
「…よければ、明日アルバムを持ってきますけど」
「本当?」
「え、ええ…」


すると、先ほどの曲のCDを一番上に置いてある物の3番目から抜き取って(あ、私もそうするなあ…。何だか一番上にあるやつって…取りたくないんだよね)レジに持って行く鶴正さま。それを購入して、私たちはCDショップを後にした。はあ、明日鶴正さまのCDを貸してもらえるのか…。ただのCDでも、彼の物だったら…何だかとても貴重で、重要で…素敵なものって思うんだよね。…重症、なのかな?病名をつけるとしたら、「鶴正さまラブ症候群」とか?…あは、何だか自分で言って恥ずかしくなってきた。

その後も色んな店を巡って、気付けばもう夕方。
稲妻駅まで戻ってきた私たちは、通学路を通って家に帰る。…少しだけ遅い時間になってしまったから、家の前まで送ってもらえることになった。


「(なんだか、名残惜しいな)」

いつもより長く一緒にいれたから、欲が出てきてしまう。終わって欲しくない幸せな時間。だけど、幸せな時間はあっという間に終わってしまった。
家の前に着くと、ああ…現実に戻ってしまった、とおかしなことを思った。…鶴正さまとのデートは、確かに現実で起こった出来事だけど…だけど、幸せな…夢びような気分だったから、そう感じたのかもしれない。


「今日はありがとうございました、…と、とっても楽しかったです」
「そう、ですか。…あ、明日CD持ってきますね」
「あ、ありがとうございます。…あ、では…また明日」
「……名前」

私が家に入ろうとドアに手を伸ばすと、反対の手をぐいっと引っ張られて、そのまま硬い…だけど温かい何かに包まれた。
一瞬で離れたその温もり。…背を向けて去っていく鶴正さまの背中を、私はただ呆然と眺めていることしか出来なかった。


「だ、抱き…抱きしめ…」




呆然としながら家に入ると、2階からドタバタと駆け下りてくる兄の姿。「おい、名前!今の彼氏?抱きしめられてたよな?くっそーリア充め!リアル充実(バキッ)痛いっ!本気で殴るな!」



20111023



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