彼女と付き合うことが決まった。
当然俺は舞い上がったけど、それと同じように虚しさが心の中に広がっていった。結局俺は自分を偽ったままなんだ。それは彼女を騙しているということなんだ。そう思うと胸が苦しくなって肩が重くなって吐き気がする。だけど胸はドキドキと高鳴っていて、自分でもおかしいと思う。罪悪感と達成感が混ざり合って妙な感じだ。
「あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
無意味に言葉を発しながら、俺は一人頭を抱えながらその場に座り込む。
名前は素直な子だ。俺に騙されているのだって気づいてはいないだろう。俺は彼女のことが本気で好きなのに、このままでいいのだろうか?今からでも彼女を追いかけて、本当のことを話すべきなのだろうか?
だけど…、だけど…。
夢にまで見た、彼女との「新しい関係」
手放したくない、手放す気もない。…もし本当のことを話して、嫌われてしまったら…?
そう考えると、俺の足は竦む。
…やっぱり駄目だ、言えるわけがない。
弱い俺は嫌だ。だけど彼女に嫌われるのはもっと嫌だ。
俺はネガティブな自分にコンプレックスを感じている。俺だって男なんだ、そ、その…かっこよく見られたいし、いつも笑っていたい、クラスではしゃぎたい、色々なことに積極的に参加したい。だけど、恥ずかしくて怖くて、情けない俺はいつも皆の後ろで見ているだけ。
だから、たとえ演じている自分でも強くなれた気がしていた。そんな自分が誇らしかった。
俺自身、これからどうすればいいか分からない。
このままでいたくないし、このままでいたいし…。矛盾しているけど、俺にはどちらも選べない。…どんなに自分を偽っても、俺は弱くて情けないままなんだ。
「えーっ、速水と半田、付き合うことになったんだ!」
「え、ええ…まあ」
「前から好きだったもんな〜、良かった良かった!」
浜野くんは俺の友達、そして憧れ。
小学校からずっと一緒にいた俺と浜野くんは、よくプラマイコンビと呼ばれていた。プラスとマイナス、陰と陽。対極。
俺はずっとポジティブでいつも笑顔で明るい浜野くんに憧れていた。
人は自分にはないモノに惹かれる傾向があるらしい。
俺にとってのそれは、浜野くんや名前のことなのかもしれない。
対極である俺と名前が結ばれたのは、俺が彼女の前で「陽」を演じたから。俺が「陰」になってしまったら、この関係は崩れてしまうかもしれない。だったら俺は…。
「速水?どうかした?」
「…い、いえ…なんでも、ありません」
「?まあ、それならいいんだけどさ」
だったら俺は…このままでいよう。
陰の俺は、陽を演じて、そして彼女の隣にいるんだ。
彼女を幻滅させないために、俺を守るために。
俺は陽を演じるんだ
20111009