オレは名前が大好きだ。それはずっと昔からそうだし、それはこれからも変わることはぜったいにない。
名前とは二年前にあった、グランドなんちゃらなんちゃらで出会ったんだ。名前をはじめて見たとき、心臓がイライラして名前の顔がまともに見れなかった。最初は、名前が嫌いだからイライラするのかと思って、ボールを奪う時に突き飛ばしたり睨んだり色々してたけど、やっぱり気持ちは晴れなかった。それで、オレのすっげー尊敬してるリュゲル兄にそうだんしたら、それは恋だ!って言われたんだ。

名前を見たら心臓がイライラするのは、名前が好きだからなんだ。それをはじめて知った時、オレのぜんぶが幸せ色に染まった。イライラがドキドキに変わる。でもオレは恋の仕方を知らなかった。だから、またリュゲル兄に聞いたんだ。そしたら、好きな人と一緒にいたら次第にわかるもんだって教えてもらった。オレは、名前と一緒に暮らしてみることにした。そしたら、名前とやりたいことも見つかるだろうし、もっともっと名前のことを好きになれるかもしれないと思った。


それからはすっげー順調だった。リュゲル兄が名前を連れてきてくれて、オレの家で一緒に生活を始めたんだ。リュゲル兄と二人の暮らしも楽しかったけど、そこに名前が混ざることですっげーすっげーすっげー楽しくなって、いつも心がポカポカして、心がいつも満たされてた。


名前はとても無口で、好き嫌いが多くて、そして絶対に外に出ようとしない。オレが体調に悪いからといって連れ出そうとしても、名前はとても嫌がる。それが、オレはとても悲しい。一度でいいから名前と出かけてみたかった。ファラム・オービアスを気にいってもらいたかった。

一度無理矢理連れ出そうとしたことがあったんだけど、その時名前は初めてオレに抵抗した。オレの手を振りほどいて、拒否したんだ。だから、オレはカッとなって名前の頬をぶったんだ。ちょっと力が強かったから、名前は勢いよく飛んで、そして頭を打ってピクリとも動かなくて、オレはすごくビックリしたのを覚えてる。
名前が動かなくて、それが怖くて怖くて震えてたオレのもとにかけてきてくれたのはリュゲル兄で、そんな兄の姿にホッとして、子供みたいに泣いてしまったのも覚えてる。
リュゲル兄はオレと名前を悲しそうに見た後、オレを叱った。

名前はあれから、さらに無口になった。でも名前はリュゲル兄とはよく話してて、笑顔も見せてて、よくわかんねーけど心がぐちゃぐちゃした。名前の嫌いなご飯も、リュゲル兄が優しく叱ったら名前は食えるようになるんだ。ぐちゃぐちゃ。


リュゲル兄はすげー。だから、名前にも頼られてるんだ。リュゲル兄はすげー。オレも、リュゲル兄みたいになれたら。なれたら、名前と笑いあえるのかもしれない。



「……たい」


小さな部屋、名前の囁きが聞こえてきた。覗き窓から覗くと、名前が小さな方を震わせて泣いていた。心がざわざわする。名前には笑っていて欲しい。それだけで、オレは嬉しくなるんだ。
鍵を外してガチャリとドアを開けると、名前がオレを見て目を見開き、そしてオレを呼んだ。
ブルブルと震えてる。寒い?と問いかけるが返事が返ってこなかった。オレは名前に近寄った。名前はオレを見ようとしなかった。ぐちゃぐちゃ。


「名前泣いてた?」
「…。」
「名前が悲しいのは、オレいやだ。…なんかあるんなら、言って?オレ、なんでもするよ?」
「…ない」
「え?」
「いらない」


名前がオレを見た。ハッキリとした、拒絶だった。いらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないオレが、名前がオレを、名前がオレをいらない。リュゲル兄だったらいるの?リュゲル兄だったらいるのか?リュゲル兄がいいのか?

オレは、名前に手を伸ばす。名前が欲しかった。だれよりも、欲しかった。



「ひ、い、や、いやだ、いやだ来ないで!いや、助けて、いや、もう、こんなとこい、」



ポキッ













「リュゲル兄、名前の手、折れた!」




20140126


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テーマ「人外ファンタジー」
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