ああ、行ってみたいあんな土地やこんな土地。今からどきどきわくわく。

名前はとても夢見がちな少女だった。故郷のファラム・オービアスが突如出現したブラックホールにより滅亡するかもしれないと聞いた時も、そのあと別の星に移住できるかもしれないという話を聞いた時も、別の星の者を死に追い込んでまで移住する計画を王宮が提案した時も、いつだって彼女の気持ちは未来に向いていた。


「名前、まだ俺たちは勝てるかどうか分からないんだぞ?」
「え、絶対大丈夫だよ。だってファラムのチームにはリュゲルがいるんでしょ?」
「あ…ああ、そうだな。俺がいるから勝ったもど、どうせん…。……あ、…勝つに決まっている!」
「だよね。あ、これこの前王宮から配布された大会参加国一覧。私的に、サザナーラがいいなって思うんだ。このパンフレットに書いてあるアブックルストリート、すごく綺麗。可愛いお店もたくさんあるんだろうな〜。でも、このドームが壊れて水が入ってきたらどうするんだろう、息が出来なくなっちゃうね。ほら、リュゲルも見て?リュゲルはどこに住みたい?」
「そうだな…住みやすさでいえば地球なんじゃないか?」
「え〜でも地球って面白みがないよ?あっ、いっそのことラトニークに住んで一から開拓し直すのとかどう?」



常に前ばかり向いている彼女。リュゲルはそんな彼女にいつか置いていかれるのではないかと、内心恐ろしかった。
今は隣にいることができるけど、この大会が終わったら…どうだ?自分と彼女は家族ではない。それにまだまだ子供だ。必ず、同じ星に移り住めるというわけではないだろう。そうすれば、きっと頻繁に…いや、もしかしたら二度と会えなくなるかもしれない。彼女はふわふわ、つかみどころがない。会えなくなったら、手を放したらきっと自分のことなんてすぐに忘れてしまうのだろう。それは、とても…いやだった。



「リュゲル、百面相してどうしたの?」
「名前は…不安じゃないのか?」
「なにが?」
「ファラムから知らない星へ移り住む、こと」
「どうして?」
「どうしてって…、何が起こるか分からないし、それに…」
「…なんかリュゲルらしくないなぁ。大丈夫だよ、絶対に大丈夫」
「っ、…でも」
「もう!でもとか言わないで?私はどこの星に住むことになったとしてもリュゲルが隣にいてくれたら平気なの!」


名前は少しだけ怒った様子でリュゲルの手を握り、そしてぎゅっと握りしめる。
するとどうだろう、リュゲルの不安な気持ちがぱぁっと晴れていった。それはもう、どんより曇り空から太陽まぶしい快晴に。それと同時に、リュゲルは少しだけ自分を情けなく感じる。ああ、名前はこれほどまでに自分のことを想っていてくれたのに、自分はそんな彼女のことを信じられなかったのか、と。これは、自分の想いを彼女に示さなければ、……男がすたる!

彼女の頬に手を伸ばすと、名前は柔らかい笑みを見せてくれた。それは、リュゲルの一番好きな人の笑顔だった。
いい雰囲気になった、これならいける!そう思ったリュゲルが名前の顎をすくい、それから唇を合わせようと顔を近づけた瞬間、名前が突然立ち上がる。そして先ほどまで読み漁っていたパンフレットを手に持ち、そして開いた。リュゲルはというと、キスをしようとした体勢のまま微動だにせず。



「ん〜でもどこの星もファラムに比べたら全然なんだよね〜っ。だって可愛い洋服だって美味しい食べ物だって可愛い生き物だって、ぜーんぶファラムが勝ってるんだもの!あ〜あ、ブラックホールどうにかならないかなぁ。リュゲル、どうにかならない?…あれ、リュゲル?固まっちゃってどうしたの?」
「…言うな、それ以上何も言うな…」




20140119


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テーマ「人外ファンタジー」
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