(少しのネタバレと死ネタ)







私たちの命はとても短いものだ。だけどみんなそれを嘆いたりはしない、ラトニーク人にとってはあたりまえのことだから。
だから、私の考え方はラトニークでは異端だった。私は死を嘆き悲しむ、風変わりなラトニーク人だった。…私は白蟻に近い生態のため、長く長く生き続けることができる。だからこそ、人より楽しみを見つけることも多かったし、同時に胸を締め付けられるような悲しみに襲われることも少なくはなかった。


もう、何年前の話だろう。途方もない時間を生きてきたけど、あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。
あの頃は親しい人たちとの出会いと別れを経験し続けて、身も心も疲れ切っていた気がする。人との接触を避けて家に閉じこもる、退屈な日々が続いていた…そんな時だった。

異端な考えを持つうえに誰とも交流をしようとしない私に、積極的に話しかけてくる若者がいたのだ。彼の名は、バンダ。私の、ずっとずっと大切な人。
最初は度々家にやってくる彼がしつこくて苦手だったけど、次第に彼の真っ直ぐな考え方や優しさに惹かれていった。バンダは私をこの狭い世界から連れ出してくれた。いろんなことを教えてくれた。もちろん私は彼より長生きだから、彼が教えてくれることのほとんどは知っていたけど、それでもバンダの目から見てバンダの口から聞く世界は私が考えていた世界より大きくて輝いていた。バンダと一緒にいるのが、楽しくて仕方なかった。だからこそ、




「名前、僕の寿命、あと一週間なんだ」




1つも表情を変えずに言い放ったバンダの頬を叩いた。
何故私がこんなにも、声を荒げて怒っているのか、きっと理解していないバンダは戸惑った様子で私に叩かれた頬に手で触れる。そして、おそるおそる私の名前を呼んだのだ。私は何も言わない。言えない。ポロポロと涙を流す私を見て、バンダは心配そうに、そして遠慮がちに私に触れた。



「名前、どうしたの?」
「……」
「言ってくれなきゃ分からないよ、僕なにかした?名前がされて嫌なこと、してしまったのかい?」
「…言っても、分かってくれない」
「そんなの、分からないじゃないか」
「今まで誰もわかってくれなかったっ、そ、それに…言ったら、言ったら、認めてしまうことになりそうで、怖い」
「もしかして、僕の命のこと?」
「……」
「…名前、僕は…」
「いやだ、いやだいやだ!聞きたくない!」


バンダから離れて、座りこみ耳を塞ぐ。
聞きたくない。きっとお決まりの言葉が返ってくるんだ。彼の口から聞きたくない、死がさだめだとか死が怖くないとか、そんなこと聞きたくない。バンダが、悲しそうな顔をしている。…ああ、私は…私、私だって、…



「……わかってるの、全部私の我儘だってわかってるの。でも、でも…」
「名前は我儘なんかじゃないよ」
「…寂しいよ、悲しいよ、わ、私おかしいの?私がおかしいのかな、悲しいのは、おかしいことなの?死が怖いのは、おかしいことなの?」
「おかしくなんかない、僕だって名前を一人残すのはとても、とても辛いよ」
「バンダ、好き。好きなの、死なないで、お願いバンダ、死んじゃ嫌だよ」
「名前、それは…無理だよ。命は限りあるものなんだ、僕は僕として、精一杯生きてきたんだ。そして次へ命を繋がなくちゃいけないときが来たんだ」
「……一人は、嫌だよ」
「一人じゃないさ。ねえ、名前、僕…夢があったんだ。僕たちの二人の命を、僕たちの子供たちに繋げたいっていう夢。ねえ、そしたらずっと…一緒だよ?」
「バンダ…」
「好きだよ、名前。僕たち、二人の希望を作ろう」


その時、初めてバンダが涙を流していたことに気づいた。私が彼の頬からこぼれ落ちる涙を掬うと、彼はいつものように優しい笑顔で私に笑いかけた。
そのまま降ってくるバンダの唇を受け入れ、そして二人で干し草で作ったベッドに沈む。彼を受け入れながら、私はそっと未来に思いを馳せる。バンダに似た小さな子供と、私。そして私たちを見守ってくれているバンダの姿が、確かに見えた。








ねえ。バンダ。私の大切な人。
私の命も、もうすぐ終わります。とても、とても長くて、かけがえのないものでした。
みんなより少しだけ長生きだった私は、みんなより少しだけいろんな体験ができたのかな?そうだと、嬉しいなぁ。

ねえバンダ、もうすぐそっちに行くよ?バンダが生きた時間よりも、長くそっちにいると思うけど、私のコト覚えてなかったら、許さないからね?…あはは、冗談だよ。うん。冗談。…はあ、ふふっ。……幸せだなぁ。




20140117


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -