優しいねってよく言われるけど、私はその度に曖昧に笑って受け流す。その言葉は私にとってはナイフと似たようなもので、言われるたびにぐさりと心の表面に突き刺さる。私は、優しくなんかない。

笑うことしかできなくて、合わせて合わせて合わせて相手の様子を窺って。それは果たして優しいと言えるのだろうか、いや…言えないだろう。嫌われたくないから反論せずに相手の意見に合わせて笑って、しかもそれは、相手を思いやってのことではなく、自分が嫌われたくないから、相手にとって都合のいい自分を演じているのだ。はたしてそれは、優しいといえるのだろうか。
汚い自分を偽りで隠し、都合良く振舞う自分が嫌いで嫌いでたまらない。だからこそ、私は彼がとても苦手だった。




立向居くんは誰にでも分け隔てなく接し、常に笑顔で他人に気を配る…優しい男の子。私とは全然違う優しい子。だから、少しだけ苦手だった。自分にはないものを持っている彼に嫉妬してる私、更に醜い。
そんな醜い私にも、立向居くんは優しく接してくれる。私は他の人にするのと同じように、彼の優しさを笑って受け流す。聞き流す。掃いて捨てる。たまらなく苦手。彼が。たまらなく嫌い、そんな私が。



「名前さんは優しい人です」


突然、立向居くんがそう言った。マネージャーの仕事を黙々とこなしている私に近づき、どろどろになったユニフォームを隠そうともせず立向居くんがそう言った。頭の中で、これからそのユニフォームを洗うのは私なんだけどなぁ。なんて思いながら彼の言葉をもう一度頭の中で繰り返す。また、いつもの言葉だ。立向居くんにそう言われたのは初めてだ。彼は私が思っているより案外、優しくないのかもしれない。私の嫌いな言葉を投げかけてくるのだから。



「そんなことないよ」
「そんなことありますよ。だって名前さんは俺の言葉で傷ついているのに、怒らないじゃないですか」
「名前さんは優しいですよ」
「こんなことを平気であなたに言う俺と比べて」
「全然優しいんですよ」



にこりと笑った立向居くんは、やっぱり優しくないのかもしれない。




20130905





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