瞬木くんはペディキュアを極端に嫌っている。彼曰く足は神聖なもので、そこに色付けをしたり何かで固めたりするという行為は許せないらしい。
だがこれからの季節、サンダルを履くことも多くなり自然と足を露出させる機会も増える。そんな中何も手入れしていない肌色の爪を見せるのは少しだけ嫌だった。


「名前、それ…」
「だってペディキュアしてないと味気ないでしょ?」
「味気ないって…していたらしていたで違和感があるだろう」
「でも可愛いでしょう?」


そう言って塗りたての赤色を見せると、瞬木くんは呆れたようにため息を吐いた。
もう、そんなにあからさまに嫌そうな顔しなくていいじゃない。口を尖らせて不機嫌になると、瞬木くんは少しだけ困ったように眉を寄せて、またため息を吐いた。


「名前は自然体なのが一番かわいいよ」
「オシャレしたほうが可愛くなるにきまってるもん」
「…それにそんなにキツい色、俺は好きじゃない」
「私が可愛いと思ったからいいの!もう、瞬木くんしつこいよ」

私がそう言うと、瞬木くんは肩を竦めた。いやいやそれは私がやりたいよ。頬を膨らませて瞬木くんを睨むと、彼は私に近づいてきてしゃがみ込み、それから椅子に座っていた私の足を彼の視線の高さに持ち上げた。

瞬木くんの顔が足に近くてドキドキして、それから彼の真面目な視線を見て不安にもなる。
やっとこさ彼の名前を呼ぶと、彼はううんと一つ唸ってから、私を見上げた。


「確かに、似合っているし可愛いとおもうよ。でも俺は自然体の爪の方が可愛いと思うし名前には似合うと思う。名前、君は彼氏の好みよりも、他のやつの好みを優先するのか?」
「うっ…」
「どんな名前も好きだけど、俺はこれをつける前の君の方がもっと好きだよ」
「…瞬木くんのばか」
「ははっ、じゃあこれ」

爽やかに笑う瞬木くんに押し付けられたのは除光液とコットン。準備のいい奴め。
瞬木くんに見守られながらペディキュアを落としていく。瞬木くんはほんとに、頑固。…だけど、あんなこと言われちゃったら…誰でも頷くしかなくなるよね。それを分かってて言ってるんだから、彼はほんとに…。…まあ、そういうところが好きなんだけど。


もう何度目になるかわからないため息をはきながらコットンに除光液をひたした。




20130611


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