小さいころの皆帆くんは、確かに今のようなマイペースさはあったけど、それでもちゃんと私の傍にいて笑ってくれていた。私が転んだら手を差し伸べてくれたし、手だって繋いでくれてた。だけど皆帆くんが推理や人間観察に夢中になってから段々と距離が離れていき、今では会話すらしなくなった。


そんな時たまたま見たサッカーの日本代表選考の番組で彼の姿を見たときは本当に、開いた口がふさがらなかった。


「僕、父さんのような刑事になるのが夢なんだ」


そう言ったのは他でもない皆帆くんなのに。なんでサッカーなんてしているの?そもそも皆帆くんは運動が苦手なはずなのに。
小さいころはあんなに近かった私たち。なんで、こんなにも離れ離れになっちゃったんだろうね。



私は窓からお向かいにある皆帆くんの家を見た。あ、皆帆くんの部屋…電気ついてる。…なに、してるんだろ。

…なんて、考えても仕方ないよね。そう思って、窓を閉めようとした時だった。





「名前」



懐かしい声が、私の名前を呼んだ。驚き、振り返ると皆帆くんが彼の部屋の窓から身を乗り出してこちらを見ていた。
突然のことだったので、反応できないままでいると、皆帆くんはもう一度私の名前を呼んだ。




「皆帆、くん…」
「名前久しぶり、元気だったかい?」
「元気…だった、けど…」
「そう、それはよかったよ」
「……」


なんで、なんで、なんでこのタイミングで話しかけてきたんだろう。あれだけ、距離を置かれていたのに。あれだけ、私のことを見てくれなかったのに。今更、なんで?


「僕さ、何ヶ月か家を空けるんだ」
「…知ってる。イナズマジャパンに選ばれたんでしょ」
「あれ、言ったっけ?」
「聞いてるわけ、ないでしょ。…」
「…、まあとにかく、名前には挨拶をしておこうと思ってね」
「…なんで」


自分から離れていったくせに、なんで今更。私には挨拶をしておこうって、なによ。そんな挨拶いらない。ただ…ただ私は、皆帆くんと…皆帆くんが、…。

ぽろぽろと、涙がこぼれる。泣きたくないのに、彼の前ではなんてことなく振舞っていたかったのに。
そんな私の様子を見て皆帆くんが、焦るわけでもなく、ただ、静かに口を開いた。


「昔、僕は君にこう聞いた。僕は必ず刑事になる。だからその時まで、僕を見ていてね、と」
「……」

もちろん、覚えている。 忘れるはずがない。私は皆帆くんをずっと見ていた。話さなくなっても、離れても、皆帆くんのことを考えてたよ。そう、私が言うと皆帆くんは少しだけ笑って、そして眉を寄せた。



「でも、僕は君を悲しませてしまっていた。僕は君が、僕のことを見てくれている…その自信に、酔って…肝心の、君の…名前の気持ちまで考えることが、できなかった」
「皆帆、くん…」
「ごめん、名前。君が泣いているのは、僕のせいだ。本当にごめん」
「…皆帆くんの、馬鹿」
「え…、う、うん…君を悲しませる僕は…馬鹿、なのかもしれない。本当にごめん、名前」
「………みてるから」
「…!」
「イナズマジャパン、頑張ってね。私、皆帆くんのこと、見てるから」
「…ありがとう」



嬉しそうに笑う皆帆くんに手を振って、私はカーテンをしめる。そのままベッドの上に倒れこんで、そして布団を思いっきり抱きしめる。なんともいえない、黄色の幸せの泡に全身を包み込まれた。息苦しくない。幸せ、幸せだな。




…そういえばなんでサッカーなんてやるのか、聞くの忘れちゃった。




20130604


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