(よくわからないパロディ)







家だって普通の家庭、友達だっている、やらなければいけないことがないわけでもない。
不幸ではない。…でも時々、私の心はめちゃくちゃになる。たとえば、友達と喧嘩したとき、自分の中の大きな壁にぶつかったとき、将来について考えたとき。皆がそれぞれ、いろんなことで悩んでいることはわかるけど、でも、それでも世界で私が一番不幸になったんじゃないかって気持ちになることもある。今、まさにそうだ。

きっかけは、些細なことだった。
ついつい言わなくてもいいことを言ってしまい、友達を怒らせてしまった。そのせいで、少しだけ遠巻きにされた。私のことなんだろうなっていう、苛立った様子の友達の日記の内容。最初は、ああどうしようって思ったけど、段々それが苛立ちに変わっていった。わざわざ日記に書くことか?そもそも、それだけで遠巻きにされるなんて意味が分からない!

そこから苛立ちがつのり、些細なことにでも苛立ってしまうようになった。自分のことなんて、誰もわかってくれないんだ。本当の友達が欲しい。自分のことをわかってくれる人はいないのか、所詮あの友達たちも、他人に近い友達だったのだ。嫌い、嫌い、もう関わりたくない。
子供の屁理屈だとわかってはいるが、現に私は子供だ。どうしようもない焦りと苛立ちを収める方法を、まだ私は知らない。



私は周りから逃げるように、森の中にやってきた。携帯も音楽プレイヤーも電源を切って、少し開けた場所に腰を下ろした。
それから、近くにあった草を千切っては投げ、千切っては投げ、を繰り返した。すると、太陽に照らされていた私に、影がかかる。見上げると、苦笑いをした黒い髪の男の子が私を見下ろしていた。



「草が可哀想だよ」
「……誰、何」
「突然話しかけてごめんね、…ただ、森の中に一人座っている人なんて珍しいから、興味がわいてね。声をかけてみたんだ」
「あーそう」
「苛立っているようだけど、何か悩み事?」
「そうだとしても、何であなたに言わなきゃいけないの」
「悩み事って、意外と第三者に話したほうがスッキリすることもあるものだよ」
「………あのね」


ああ、私は何をしているんだろうか。
見ず知らずの、よくわからない男の子に、悩み事を話すなんて。まあ、それだけ…誰かに聞いてほしかったのかもしれない。この、知り合いの誰にも言えないような…情けない、子供くさい悩みを。

一通り話し終わった後、私はチラリと彼を見る。大した理由じゃないな、って笑ってるかな?それとも馬鹿じゃないって嘲笑ってるかな?そう思っていたけど、彼は優しい笑顔で私のことを見ていた。ドキリと胸が跳ねる。同い年くらいかと思っていたけど、その表情はとても大人っぽくて、なんだか…男の子にこういう表現はおかしいけど…お母さんみたいだ。



「スッキリした?」
「…うん」
「人は、その人生の中でいろんなことを感じて成長していく生き物だからね。そういうことを感じるのは、悪いことじゃないと僕は思うよ」
「…でも、恥ずかしいな。小さなことでくよくよ悩んじゃう自分なんて…」
「小さなことでも大きなことでも、悩むという事は悪いことじゃないさ。逆に、悩みがないと心は痩せ細ってしまう」
「……」
「悩むことで、前に進めるんだよ。だから、君は全然恥ずかしくなんかない」
「…うん…」
「ただ、悩みから逃げることは駄目だよ。どんなに辛いことにも、目を背けてはいけない。それだと、解決する問題も解決しないからね」
「目を背けてはいけない…」
「…本当の意味で、君のことを分かってあげられる人は…君だけしかいない。だけど、自分で答えを導き出すのを手伝ってくれる人なら、たくさんいるよ」
「…友達…とか、家族…とか」
「そうそう、だから暗くならないで、悲観しないで。つぶれてしまったらだめだよ、いつでも心は未来を向いていないと」
「……う、ん。…頑張ってみる。友達にも、逃げずに話しかけようと思う」
「うん、頑張って」


ふわりと笑った彼。そういえば色々聞いてもらったけど、この人はいったい誰なんだろう?
そう思った瞬間だった。強い風が吹いて、葉が舞い散る。驚いて閉じた目を開いたら、隣にいた彼がいなくなっていた。


…あれ?

きょろきょろと辺りを見回したが、人影1つない。
ただ、先ほどと違うところが一つだけあった。…木の下に、石像があったのだ。こんなの…此処に来た時にあったっけ…?
そこまで思って、ハッとした。不思議な少年、母親のような優しい笑顔…もしかしたら、彼は神様だったのかもしれない。


…だとしたら、私は神様に助言をいただいたことになる。そう考えると、心が踊った。



「神様、ありがとうございました」



石像に向かって一礼すると、私はその場を後にした。
駆け抜ける森、優しい風が私を揺らした。






20120701



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