雷門に転入して初めての大きな試合。1つ下の弟のマサキと一緒に、胸を躍らせながら集合場所の雷門中へとやってきた。
まだ少しだけツンツンしているマサキはまだ雷門に馴染めていないみたいで、ちょっと心配だけど…この試合を機に皆と仲良くなれたらいいよね。
今日の試合会場はとてもユニークな作りで、スタジアム中に風が吹いてボールを蹴るだけでも大変そうだ。
そんなスタジアムに皆が苦戦している中、私は相手チームの10番の人のことが気になっていた。
試合前に雷門の人たちと少しだけ言い争いになっていた…月山国光の南沢さん。どうやら彼はついこの間まで雷門中にいたらしい。
彼はとてもかっこよくて、サッカーも上手かった。…いつの間にか、私の目は南沢さんのことを無意識に追っていた。
「姉ちゃん、ずっとあいつのこと見てるな」
「あ、え…?あいつって?」
「(無意識かよ)…あの月山国光の妙にエロい奴」
「もしかして南沢さん?エ、エロいって失礼よ!」
「もう名前覚えたのかよ。もしかして一目惚れ?」
「え…、そ、そんなことないと思うんだけどな…」
「(ちぇっ、やっぱ惚れてんじゃねーか)…ふーん」
「マサキはそんなことより試合に集中してね!あんまり先輩に迷惑かけちゃ「はいはいわかってるよ!」
何故かふてくされているマサキを疑問に思いながら、ふと月山国光ベンチを見ると…
「(あっ…)」
南沢さんと、目があった。その瞬間、ほっぺたが少しだけ赤くなるような気がして…。あ、あれれ…?
頬に手を当てる。少しだけ熱を持ったソコ。それと同時に隣のマサキが舌打ちをした。
試合が終わって、マサキも霧野くんたちと和解できたみたいだ。うん、よかったよかった。
南沢さんと雷門のみんなとのわだかまりも解消したみたいだし、試合にも勝ったし…すごく良い感じだね。
ルンルン気分で空野さんたちと一緒に片づけをしていた時だった。「狩屋さん」知らない声が私を呼ぶ。…?誰だろう?そう思い、振り返った瞬間…息が詰まった。
「み…南沢さん?」
「あ、俺の名前知ってるんだ」
「試合、見てましたし…」
「それもそうか」
ははっと笑う南沢さんは遠くで見るよりも数倍かっこよくて、胸が苦しくなる。ううーん、なんでだろう?
いや、それよりも南沢さんが私に何の用事なんだろう?それより、なんで私の名前を…?
「ああ、名前は神童から聞いたんだ。狩屋名前さん」
「そ、そうなんですか…。あ、あの…どのようなご用事で…?」
「…ああ」
私がそう問うと、南沢さんはポケットから小さな紙切れを取り出す。私が頭に?を浮かべていると、南沢さんがそれを私に手渡した。
とりあえずそれを開いてみると、1つのメールアドレスと電話番号が綺麗な字で書かれていた。その上には、「南沢篤志」と書いてある。…え、これって…
「俺のメアドと電話番号」
「え…でも…」
「一目惚れ」
「へ?」
「俺、名前ちゃんに一目惚れしたみたいでさ」
「え…ええええええ!?」
「そんなに驚かなくても良いじゃないか」
いやいやいや驚きますよ!パニックになる私とは裏腹に、余裕の表情で笑う南沢さん。
どうしようか迷っていると、南沢さんが髪をかきあげながら吐き捨てるように話し始める。
「でも…名前ちゃんに彼氏がいるのも、知ってる」
「へ?」
「あの…水色の髪の奴…。休憩のとき、ずっと一緒にいただろ?」
「え、あの…マ、マサキは…」
「けど、俺は諦めないぜ?絶対に君を奪って見せるから」
「え?」
「じゃあな」
南沢さんがそういうと颯爽とこの場を後にした。
え。ええ。ええ。え?
なんだかいろんなことがありすぎて、頭が混乱する。だけど冷静になって考えてみると…
「(わ、私…南沢さんに…)」
そう考えると、ボッと全身が熱くなった気がした。改めて手の中にある紙を見てみる。
…色々と勘違いされてるけど…
「奪う、必要なんて…ないですよ」
皺にならなように紙を握りしめる。
ああ、雷門での新しい始まり。…そして新しい恋の始まり…楽しみだなぁ。
20120611