今日は俺の部屋でホラーDVD鑑賞デートをしているんですが、どうやら名前はこういった類のモノはてんで駄目みたいで…
先ほどから俺の服の裾を掴んではビクリと体を震わせていて…


「(も、もうっ…可愛すぎますよぉ…!)」


よく「意外」と言われるのだが、俺はホラーやグロいものには耐性があるのだ。
…隣で怯える名前を見て、グッと拳を握りしめる。彼女を安心させるようにそっと腕で抱きしめながら俺はほくそ笑んだ。…計画通りだ。

普段の俺は臆病で、彼女にかっこいい所を見せることができない。彼女の俺への評価はいつも、「可愛い」やら「抱きしめたい」やらで、男としては素直に喜べるものではなかった。
そこで俺は考えた。どうすれば彼女より(良い意味で)優位に立てるか。彼氏らしく振舞うことができるか。
考えに考え抜いた結果が、このホラー鑑賞会。怖がる彼女が俺を求めてくる姿を見たい。…不純な動機ですけど、男としては…こう、クるものがありますよね。


ビクビクと体を震わせる名前が可愛くて、どうしようもなく心を躍らせていた時だった。
「鶴ちゃん…」と、いつも明るい彼女の声とは正反対の、弱弱しい不安気な声で呼ばれた。俺は出来るだけ優しい声を出しながら、彼女に応えた。


「どうかしましたか?」
「……」
「…名前?」
「怖いよ、…止めて?」


俺はチラリとテレビ画面を見る。主人公がヒロインを守りながら、夜の廃病院をうろついているシーンだった。…確かに、これは怖い。
もう一度名前を見ると、画面を見ないようにしながら俺の服をぎゅっと握っていた。

俺はリモコンを操作して、DVDを止める。そしてテレビの電源も消した。
それでも暫く震えていた名前が心配になり、そっと顔を覗きこむ。



「名前…、大丈夫ですか?」
「鶴ちゃん…」
「え、わ…!」


名前が正面からぎゅっと抱きついてきた。耳に彼女の髪の毛が当たって、少しだけくすぐったい。
自分よりも小さな体をそっと包みながら、彼女の頭を小さな子をあやすように叩く。


「私、ホントああいうの苦手で…。ごめんね、せっかく鶴ちゃんが一緒にDVD見よって誘ってくれたのに…」
「いや、別に俺は大丈夫なんですけど(見たいものも見れたし…)…怖がらせてすみません」
「ん、大丈夫。…でもまだちょっと怖いから、しばらくこうしてて良い?」
「…いい、ですよ」


なんだか微妙な気持ちになってきた。
いや、嬉しいのには変わりないんですけど…なんだか悪いことをしてしまったな、と思って。…自分でやっておいて、何言ってるんですかね、俺。



「それにしても、鶴ちゃんもホラー苦手だって思ってた」
「はは…よく言われます」
「…あの、ね」
「?」
「私が、怖がってた時…今も、だけど…、鶴ちゃん私のこと抱きしめてくれたでしょ?…なんか、…すごく男らしくて、かっこよかったよ」


顔に熱が上がってくる。言われ慣れていないその言葉。
この言葉を言ってもらうために仕組んだので、少しだけ後ろめたかったけど…それも都合よく忘れてしまうほどに、彼女の言葉は嬉しかった。

今なら、少しだけ強気になれるかもしれない。


「名前も、涙目で俺の服握ってきてとっても可愛かったですよ」


少しだけ意地悪く笑いながらそう言うと、名前は顔を真っ赤にさせて俺の胸を軽く叩いた。




20120506


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テーマ「人外ファンタジー」
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