luceの続き





最近、青山くんと一乃くんはため息をついてばかりだ。練習はきちんとやっているけど、心ここにあらず…って感じ。…理由は、わかってるんだけどね。

一乃くんも、青山くんも、サッカー部に復帰してから公式の試合に出たことが無い。
最初は再びサッカーがやれる喜びで胸が一杯で。だけど段々と勝ち進むにつれて…部員が増えるにつれて、二人は複雑な思いを抱くようになったみたいだ。
普段から私と一乃くんと青山くんの3人で行動することが多いんだけど、ここ最近の話題は二人のサッカー部に対する愚痴が多かった。



今日も鬼道監督の厳しい練習メニューを終えた後、私たち3人は河川敷で自主練習をしていた。(といっても、私は見てるだけなんだけど)
二人は退部してからのブランクを埋めるように、毎日毎日こうして部活が終わった後に自主練習していた。

だけど、二人だけじゃない。天馬くんや神童くんや車田先輩や…、みんなみんな個人的に練習をしている。みんながそれぞれ努力している。それを知っているから、尚更一乃くんと青山くんは複雑な思いを抱いているのだろう。どれだけ自分たちが練習しようと、みんなだって努力している。まるでいたちごっこのようだ、と一乃くんがポツリと漏らした。


「そんなこと…」
「そんなこと、なんかじゃない。…苗字には分からないさ、俺たちの気持ちなんて」
「……」
「…一乃、言いすぎだよ」
「…、俺…帰るよ」


マネージャーは、選手が過ごしやすい環境を作らなくちゃいけないのに。それを私に教えてくれた一乃くんたちに不快な思いをさせてしまうなんて、最悪だ。
去っていった一乃くんの後姿さえ見ることが出来ない私に、青山くんが優しく声をかけてくれる。


「一乃も、悪気があったわけじゃないんだ。ただ…最近、俺たちは、イライラしてて…。苗字に当たっても仕方ないのに、な」


じゃあ、俺も今日は帰るよ。そういい残して青山くんは一乃くんを追って去っていった。
どうすればいいのか、全くわからなかった。一乃くんも青山くんも、慰めの言葉なんて、欲しくないだろう。かといって二人を試合に出してくれるよう監督に頼むのだっておかしい。そもそも二人がそんなこと望まないだろう。…本当にどうすればいいんだろう、考えても出てこない、次第に私は苛立ちを感じ始めた。




翌日の木戸川との試合。この試合も、青山くんと一乃くんの出番はなかった。たくさんの部員が増えたが、その人数だけベンチに下がった選手もいた。…一乃くんと青山くんと私は、まだぎくしゃくしていた。…錦くんが化身を出した。…二人はまた、複雑そうに顔を歪めた。

それから数日後。部室でドリンクのボトルを洗っていると、「お疲れさん」と声をかけられた。
後ろを振り向くと、錦くんのお師匠さんの染岡さんが右手をあげながらこちらへとやってきた。きっと、サッカー塔の見学をしていたのだろう。その途中でたまたま私を見つけた、といったところだろうか。


「ど、どうも」
「サッカー塔ってのか?随分と広ぇな。迷っちまったぜ」
「あ、案内しましょうか?」
「いや、いいぜ。仕事中だろ?…マネージャーってのは、大変だな」
「…え?」
「選手のことを誰よりも見ていないといけないし、こうやって色々と準備しなくちゃいけねぇ。まさに縁の下の力持ちだな」
「……」
「……昨日から、ずっと冴えない顔してただろ?何か悩みがあるんなら、俺でよければ聞くぞ」
「…え」
「まあ、こんな怪しいオッサンにいきなり話せって言われても困るよな」
「……っ、染岡…さん」



私は、染岡さんにすべてを話した。
誰かに、聞いて欲しかったのかもしれない。いっぱいいっぱいで弱い私の情けない悩みを聞いてくれる人を探していたのかもしれない。

染岡さんは私の話を親身になって聞いてくれて、励ましてくれて、叱咤されたりもした。


「傷つくとか不快な思いをさせるとか…、そういうことを考えるのも確かに大切だ。けどな、見守るだけじゃ伝わらないぞ。…まあとにかく、ぶつかっていけば良いんだよ。マネージャーはただ選手を見守るだけの存在じゃないんだ。自分の感じたことを伝えてみろ。お前達は仲間だろ?」
「…仲間…」
「…これ、ここに置けばいいのか?」
「あ、いえそんな…自分がやりますから…!」
「気にすんな。手伝うぜ」


染岡さんが洗い終わったボトルを乾燥機まで運んでくれた。
急いで私は手に持っていたボトルをすすぎ、染岡さんが入れてくれたボトルの隣にそれを並べた。


「まだ仕事はあんのか?」
「いえ、もうこれでおしまいです」
「ならグラウンド行こうぜ。…というか、俺が案内してもらいたいだけなんだけどな」
「ふふっ、わかりました。じゃあグラウンドへ行きましょうか…。…あ、あの…」
「ん?なんだ?」
「ありがとうございました」
「おう、気にすんな」







それから私は染岡さんと一緒に、他愛の無い話をしながらサッカー塔の外にあるグラウンドへ向かった。
グラウンドではみんなが個人個人で練習をしていた。そんな中、端っこの方で天城さんと一緒に練習する二人を見つけて、ズキリと胸が痛む。
すると、そんな私の肩を染岡さんが優しく叩いた。


「行かなくていいのか?」
「…いいえ、…行きます」
「…ああ、その意気だ。頑張れよ」


染岡さんにお礼を言って、私はタオルを持って一乃くんたちのもとへと向かった。



「お、お疲れさまです…!」
「苗字…、ありがとう」
「……」
「……」

青山くんは戸惑いながらもタオルを受け取ってくれたが、一乃くんはあのことがあったからか目もあわせてくれない。天城先輩の無視は完全に八つ当たりだろうけど。だけど、私も黙ったままではいなかった。半ば無理矢理2人にタオルを押し付けて、少し離れたところで彼らを見守ることにした。
私の態度に戸惑いつつも、練習を再開した3人。だけど、 蹴るボールに魂が篭っていないというか…。天馬くんじゃないけど、サッカーが悲しむよ。


すると、三国さんが守るゴールを錦くんが破ったらしく、嬉しそうに歓声をあげている姿が見えた。
それを見た瞬間、3人の顔が一気に曇った。


「結局、俺たちには無理ってことですか」
「何やっても試合に出られないド」
「途中から入った奴にいきなり化身を出されたら、俺たち出る幕ないですよね」
「で、出る幕がないとか…そんなこと…」
「ないって言い切れるのか?」
「……言い切れるよ」
「…勝手なことを言うな!俺たちの気持ちなんて分からないくせ「一乃くんたちはっ…!」…」
「一乃くんたちは、いっつも練習が終わったら…更に個人練習までしてる。それを、私はずっと見てきた」
「……」
「いたちごっこなんかじゃない。一乃くんたちは、一乃くんたちのサッカーをやっているんだよ…?皆だって頑張ってるけど、一乃くんたちだって…」
「でも、俺たちは…、それなら俺たちは、なんで試合に出れないんだ!」
「世の中、才能が全てなんだド」
「才能なんて言葉、軽々しく口にするな」


染岡さんが私たちのもとまでやってきてくれた。私の横に立つと、少しだけ顰めていた表情を柔らかいものに変えて、一乃くんたちを見る。
それから、錦くんがイタリアに行ってからの出来事を話し始めた。


「あれ以来、あいつは黙々特訓に励んだ。来る日も来る日も、どんなに辛くても、成果が出なくてもな。気楽そうな奴だが、辛かったはずだ。その結果が戦国武神武蔵。…つまり、アレだ。結果を信じて汗を流せば、なんとかなるってことだ」
「染岡さんはどうしてそこまで錦のことを…?」
「なんだろうな…。イタリアのユースで一人ぼっちでサッカーしてるアイツを、放っておけなかっただけだ。…苦しんでいる仲間を力づけるのが、雷門の良いところだ。…お前たちにも、もう手は差し出されているぞ」
「…え」
「お前たちの雷門魂を見せてみろ。…お前達次第でいくらでも違ってくるんだからな」


染岡さんが去っていった後、重い沈黙が私たちを包み込んだ。天城先輩は何か思うところがあるのか一人で別の場所に移動してしまった。
3人になった。いつもは3人でいる時が一番楽しいのに、今はこの空間が息苦しくてたまらない。…だけど、一歩踏み出さなければ。マネージャーとして、そして二人の友人として、仲間として…踏み出さなければいけないんだ。

私が一乃くんと青山くんの名前を呼ぼうとした時だった、一乃くんが勢い良く頭を下げた。それに続いて、青山くんも頭を下げた。…私に向かってだ。



「一乃くん、青山くん…」
「本当にすまなかった。苗字には、たくさん助けてもらったのに…っ!」
「謝らないで。私のほうこそ、たくさん無神経なことを言ってごめんなさい」
「苗字こそ謝る必要なんてないさ!……、苗字、俺…俺、精一杯練習に励むよ」
「俺も、…染岡さんの言っていた雷門魂を、苗字に見せることが出来るように、頑張る」
「…私も、もっと色んなことを知ってみんなの役に立ちたい、な。…って、なんか決意表明大会みたいだね」


私がそう言うと、笑いが零れる。
数日間だけだったけど、離れていた心が元に戻ったようでとても嬉しい。


「そういえば苗字、染岡さんと仲が良さそうだったけど…」
「ああ、染岡さんには色々と助言をいただいたの。染岡さんって、本当に男らしくてかっこいいね」
「……」
「……」
「?二人ともどうしたの?」
「…いや、何でもないよ。ねぇ、青山」
「ああ、一乃」
「?」




20111211


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -