あの日から私は、一乃くんと青山くんが誰もいなくなったグラウンドで練習するのを見守っていた。
マネージャーと言っても、タオルとドリンクを渡すだけなのだが、彼らはとても喜んでくれる。

サッカーをやっている時の二人の顔は、本当に晴れやかで…。
私はそんな二人を見ているだけで、自然と笑顔になれた。


練習の後、一緒に帰ることも当たり前になっていた。
でも今日はちょっと特別。家に帰ってから私服で再び集まり、三人でファミレスへ晩御飯を食べに行く約束をしているのだ。



「苗字は何を頼むんだ?」
「うーん、そうだな…このパフェとか、すごく美味しそうだよね」
「まずは飯を食えよ、飯を」
「はーい」
「はい、は短く」
「はいはい」
「…わざとやっているだろ」
「ごめんごめん」
「あははっ、青山と苗字…良いコンビだね」



自然と笑いが起こる。
数日前までは、この二人とこうしてまた笑いあえるなんて夢にも思っていなかった。

今この瞬間が…本当に幸せで、体の奥からこみ上げる温かいものが、心を包み込んで…
ああ、セカンドの皆や水森くん、小坂くん…辞めてしまった南沢先輩とも、またこうして一緒に過ごせたらいいのに、と欲が出る。

…駄目だ、私は…少しでもみんなの役に立てることだけを考えればいいんだ。…戻ってきて欲しいなんて、私に言う資格はない。


「苗字?」
「…あ、ご、ごめんごめん。もう店員さん呼んじゃう?」
「何か…考え事か?」
「ううん、何でもないよ。それより注文しなくちゃね。すみませーん!」


店員さんを呼び、注文を伝える。一乃くんがエビピラフ、青山くんがミートソースのスパゲッティ、私はハンバーグ。
注文したものがくるまで、他愛のない話をして、窓から見える夜景を楽しんだり…
そうこうしているうちに、ホカホカなご飯たちがやってきて、私たちはそれに手をつけ始めた。


三人の前にある皿の中身が少なくなってきた頃、青山くんが店員さんを呼んだ。
そして、メニューを指差しながらなにやら注文をしていた(メニューを立てていたため、青山くんが何を注文したのかは見えなかった)


「まだ何か食べるの?」
「んー…まあね。一乃は一緒に食べる?甘いの大丈夫だっけ」
「うん、大丈夫」
「甘い…?」
「うん、甘いの。…あ、ほら来たみたいだよ」

店員さんに運ばれてきたのは、25センチくらいのパフェ。
フルーツやウエハースが上に乗っていて、下は苺クリームや生クリーム、バナナ、シリアルの層が何層も積み重なっていた。


「大きなパフェ…」
「超ビックサイズってのもあったんだけど、ご飯食べたからあまりお腹に入らないかもしれないと思って一つ小さなサイズにした。まあ、三人いるし…食べ切れるでしょ」
「え、三人…?私も、食べていいの?」
「当たり前。というか、苗字のために頼んだんだ。…いつも俺たちのために、サッカー部が終わっても残ってくれているだろう?…そのお礼。ちなみに奢りだから」
「で、でも…私、二人の練習を見てるだけだよ?」
「そんなことないさ、いつも俺たちのためにドリンクを作ってくれたり…本当に助かっているんだ」
「…一乃くん」
「ああ、一乃の言う通りだ。…ありがとう、苗字」
「青山くん…。……二人とも、ありがとう」


二人の心遣いに、私は涙腺が緩みそうになるのをなんとか堪えて、精一杯の笑顔を二人に見せた。
すると、二人とも優しく笑ってくれて…。


ああ、もしかしたら…と私は考える。

小さなことでもいいから…「話」をするキッカケが出来ればいいんだ。私が今この二人と、再びこうして笑いあえたのは、あの時あの場所に立ち寄ったから。あの時、ドリンクを二人に作ったから、あの日、部室塔の前で二人が私を待っていてくれたから。

小さなことが積み重なって、私たちは関係を取り戻していけた。
私たちは部員とマネージャーという関係だった。一緒にたくさんのことを経験して、楽しい思いも辛い思いも…共に感じてきた仲間だった。だから、どんなに小さなものでもいい、…きっかけさえあれば少しずつゆっくりと関係を修復していける筈なんだ。


そして、私は仲間たちをサポートをする。もしかしたら、一乃くんや青山くんのように影で練習をしている人がいるかもしれない。
私はマネージャーという役目があるんだ。だから、私の出来ることで…彼らの道しるべになればいいんだ。


またいつか、みんなで笑ってサッカーで出来るその日まで…
私は、みんなをサポートし続けるんだ。





20110906


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -