彼らは私の帰りを待っていてくれたようで(実は帰っちゃったんじゃないかと、ちょっぴり不安だった)、私からドリンクを受け取ると、顔を見合わせていた。
「飲んで」と促すと、一乃くんが戸惑ったように私を見てきた。


「でも、これ…部費で買っているものだろう…?」
「大丈夫、これ私のお金で買った練習用の粉で作ったから」
「…苗字はドリンクを作るのが得意だったもんな」
「ああ…そうだったな」


選手にはそれぞれ好みがある。
だから、一人一人味を微妙に調節してドリンクを渡しているのだ。
天馬くんたちが増えたから、好みを聞いて味を調節して、研究している。さすがに部費で研究するわけにはいかないので、自分のお金で粉を買って色々していたのだ。だから、二人にあげたのは自分の所持品で作ったもの。


「本当に、いいのか?」
「もちろん。そのために作ってきたんだから」
「…ありがとう、ちょうど喉が渇いていたんだ」
「…いただき、ます」


一乃くんと青山くんは、喉を鳴らしながら受け取ったドリンクを飲み始めた。
そして、すぐにそれは空になったみたいで…。飲むのが早い彼らに、私はなんだかおかしくなって、クスリと笑った。


「やっぱり、美味いな…。苗字の作るドリンクは…」
「ああ、ずっと飲みたかった」
「…ずっと?」
「選手一人一人のことを考えて作ってくれて、…俺嬉しかったよ。だから、部活辞めて…飲めなくなって、悲しかった」
「青山くん…」
「…たまに、セカンドのやつらと話をするんだけど…、みんな飲みたいって言ってた。水森も、小坂も…みんな言ってた」
「水森くんも、小坂くんも…?」


少しだけ驚いた。
教室で会うたびに無視をされる、話しかけても、無視されて。ああ、嫌われてしまった…そう思っていたのに…。

涙腺が潤みそうになりながら、私は一乃くんと青山くんに笑顔を向ける。
すると、二人もぎこちなく笑った。


「二人は…サッカーしていたの?」
「…ああ」
「部活辞めたのに、変だろ?」

顔を曇らせる二人に、私は首を振る。


「…ううん、そんなことないよ。嬉しかった」
「嬉しかった…?」
「…うん、二人が…またサッカーをしてるところが見れて…嬉しかった」
「苗字…」
「…俺たち、部活辞めても…ずっとこんな事をしていたんだ。…やっぱり、サッカー…好きなんだよ」


ふるふると震える両手でドリンク持ちながら、ぽろぽろと涙を零す一乃くん。複雑そうに顔を背けた青山くん。

「戻ってきて」
そう言いたいけど、言えない。言えるわけがない。二人が、どれほどの覚悟で辞めたのか。辞めたあともずっと苦しんでいただろう彼らに、涙をこぼしてサッカーが好きと言った彼らに、そんな軽い言葉は言えない。…だから、私は…。


「この時間なら…、誰も来ないし」
「…?」
「…この時間は、グラウンド…二人が使ったらいいよ」
「え…」
「私に、グラウンド使用許可権なんてないんだけどね、でも…二人ともサッカーが好きなんだから、グラウンドも喜んで、使って欲しいと…思ってるよ、きっと!」
「苗字…」
「だ、から…」


ふと、青山くんが私に近寄ってきて…私の頬に手を当ててきた。そしてゆっくりと拭われる水…いや、涙だ。
自覚したら、ぼろぼろと溢れて流れていくそれに、目の前にいた一乃くんと青山くんは少しだけ驚き、そして少しだけ困ったように微笑んだ。

一乃くんも立ち上がり、私の頭を優しく撫でてくれる。そういえば、よくこうして頭を撫でてもらったっけ…。
二人の役に立ちたくて…二人のもとに行った筈なのに…逆に慰められてるなんて、情けないなあ…。


「苗字、ありがとう」
「ありがとう」
「わ、わた…し、」
「うん」
「わたしね、二人がサッカーして、て…すごく嬉しかったよ」
「…うん」



それから暫くして、落ち着いた私。
時間も、もう遅いのでドリンク容器を洗うために二人と別れた。荷物を持って、部室塔の外に向かうと…部室塔の前で一乃くんと青山くんが私を待っていてくれていた。


「え…、なんで…」
「…たまには、一緒に帰りたくなって」
「青山くん…」
「久しぶりに帰ろう、苗字」
「一乃くん…」


他愛のない話をしながら帰路に着く私たち。ひどく懐かしくて、とても優しい空間だった。
…こんなに優しくて、そして強い彼ら。私に何かできることは…?そう考えて、思いついた。…そう、だ。


「…サッカー、またやるでしょ?」
「……ま、まあ」
「…うん」


みんなの練習が終わった後に、コッソリと練習を行う一乃くんと青山くん。私はそんな二人も、みんなと同じようにサポートしたいと思った。だから…




「私が二人のマネージャーをやるよ」




20110905


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