先生に呼び出されて、内申のことでうんぬんかんぬん言われる。
先生曰く「サッカー部にこれ以上いてほしくない」らしい。うちの担任は内申にとてもこだわる人だ。大方フィフス派の校長からサッカー部のよからぬ噂を聞かされて、それで(一応私のためを思ってのことなのだろうが)呼び出しをしたのだろう。うちのクラスのサッカー部員は私一人しかいない。(辞めちゃった水森くんと小坂くんはいるけど。付け加えると今もあの二人と気まずくて仕方ない)
今の中学サッカー界の現状を知らない、そして内申にこだわる生徒思い(空回りだけど)な先生の情熱は私一人に注がれているのだ。


「苗字、校長先生からいつも言われているんだ。サッカー部は問題を次々と起こしているのだろう。ウチのサッカー部はサッカーの偉い人たちからもよく思われていないんだって?そんなところにいつまでも居ては、いくらマネージャーといえども内申が悪くなるぞ。それに、お前は推薦でB高に行きたいんだろう?いいか、推薦を貰えるかは校長先生が決めるんだ。今からでも遅くない、サッカー部を辞めるんだ」
「…私は、何があってもサッカー部を辞めません。もういいですか?部活で疲れているんです。失礼します」
「ちょっと待て苗字!」


先生の制止を無視して、私はカバンを持って職員室から出る。
そして、少し離れたところでため息を一つ。


言われなくても分かっている。推薦が危ういことなんて分かってる。
だけど私は決めたんだ。栄都戦での、天馬くんのパスからの神童くんのシュート。あの時、私は今までにないくらい胸が高鳴った。
天河原中戦での、三国さんのセーブ。そして神童の決意…。反乱。ドキドキと、緊張して胸が詰まる。
そして万能坂戦での一体感。あの剣城くんまでもが、一丸となって反乱ののろしを掲げた…


私は、決めたんだ。
希望を持って、巨大なものに挑む彼らの強い信念…、それを何があってもサポートする、と。

何も間違ってはいない。それに、怖くなんてない。だって私には仲間がたくさんいるから。










土を蹴る音が聞こえたのは玄関を少し過ぎた所でだった。
この先にあるのは、屋外のサッカー場。腕時計を確認すると、時刻は午後6時。部活が終わったのは4時だった筈だ。…誰かが自主練習しているのかな?

ちょっと覗いてみよう。
そう思って、私は少しだけ小走りでグラウンドに向かった。
一年生だったらたくさん褒めてあげよう、二年だったら練習を見学して一緒に帰ってもいいな、先輩たちだったらドリンクを作って応援しよう…などと考えていたが、その予想は大きく外れることになった。


「あ…」
「苗字…!」
「一乃くん、青山くん…?」

グラウンドでボールを追いかけていたのは、辞めた筈の一乃くんと青山くんだった。
二人は慌てて荷物を持ち、この場から立ち去ろうとする。私はそれを止めるためにサッカー場に下りた。


「一乃くん、青山くん!」
「…ごめん、勝手に使って。もう帰るから」
「ちょ、ちょっと待って!」
「…」
「あの、さ…二人とも、汗がすごいよ。そ、そうだ…ドリンク作るから、ここで待っててよ!」
「「え?」」


私は無理矢理二人をベンチに座らせて、自分のカバンを放り投げ、サッカー塔へ向かった。
ドリンクを作りながら、少しだけ自己嫌悪に陥る。

なんで咄嗟に出た言葉が「ドリンク作るから」なんだよ…!引き止めるんなら、他の言葉でも良かったじゃん!
きゅっとドリンクを締めて、私は二つを抱えて部室塔を出る。



そうだ、私はあの二人を引き止めたかったんだ。
私は嬉しかったのだ、部を辞めた二人が、サッカーをしていたのが嬉しかったのだ。
一年生の時から、部員とマネージャーという関係で。少なくとも私にとっては、普通の友達よりも大切な存在で。
部員のみんなで遊びに行ったり、ご飯を食べたり、色んなことをしたんだ。それは、私の大切な思い出だった。

だけど、入学式の日にあんなことがあって、殆どの人が辞めちゃって。同じクラスになれた、と一緒にはしゃいでいた水森くんと小坂くんとも、話が出来なくなってしまって。残った部員のみんなも、どこかぎこちなくて…。
情けない話だけど、最初はすべてを作った剣城くん、何も知らないのに、無神経な発言をする天馬くんやそれを応援する信助くん、葵ちゃんや水鳥ちゃん、茜ちゃんを恨んでいた。全てを奪った。私は、今まで通りみんなと仲良くサッカーが出来るだけでよかったのに。あたりまえを奪った、そう思っていた頃は…本当に情けないけど、あったんだ。

だけど、私は考えを変えた。
確かに寂しいけど、だけど私は皆をサポートするって決めたんだ。…でも、去っていったみんなへの心残りは、確かにまだ消えてはいなかった。
だから、私は嬉しかったのだ。サッカーをしている、一乃くんと青山くんを見て、本当に嬉しかった。心に、小さな光が宿ったのだ。




20110905



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