南沢先輩。

同じ部活の、比較的仲の良い先輩。



先輩はとても優しい。
性格が良いとは言えないが、他人思いで後輩思い。何度も相談に乗ってもらったことがある。その度に南沢先輩は親身になって考えてくれて、私は何度も先輩に救われた。

私にとって南沢先輩は、頼れる先輩であり、兄のような人…だと思っていたのだが。最近、先輩のことを本当にそう思っているか分からなくなってきていた。



「ここでこの公式を使うんだよ」
「ああ、なるほど。それで…こうして、こう…ですね!」
「正解。やれば出来んじゃねーか」
「先輩が教えてくださったからですよ」
「今度なんか奢れよ?…ま、とりあえず少し休憩な」


図書室の椅子に背を預けて、先輩は静かに目を閉じる。
春風が吹いて、先輩の綺麗な髪の毛を揺らすと、先輩の香水の匂いがした。

私はよく南沢先輩に勉強をみてもらっているんだけど、……。


先輩をチラっと盗み見る。長い睫毛に綺麗な顔。そして春も終わりに近づいてきたためか、学ランとシャツのボタンを少しだけ外していて…


「(先輩…えろかっこいい…)」


先輩の何気ない仕草にドキドキしてしまう。今まではこんなこと無かったのに…。
確かに、私は先輩のことが好きだ。でもそれは、敬愛、友愛の意味が強い。はずだった。

でも最近、先輩のことを必要以上に目で追いかけてしまったり、先輩と誰かが話をしているとどんな内容なのか気になってしまう。
優しくされると今まで以上に嬉しくなって、先輩が近くにいたら話しかけてもらえることを期待してしまう。


これは恋なのだろうか?それとも、憧れの気持ちが以前より強くなっただけなのだろうか?
すると、今まで黙っていた南沢先輩の目がゆっくりと開いた。私の視線と先輩の視線が絡み合う。


「何見てんだよ」
「み、見てなんか…」
「もしかして見とれてた?」
「し、笑止!」
「なーんだ、残念」

先輩はクツクツと笑うと、ふと何を思ったのか私の髪を掬った。
驚いた私が動きを止めると、先輩はこてんと首を傾げる。先輩の普段はあまり見ることのできない可愛らしい仕草に、胸が跳ねた。


「……お前さ、最近何かあったのか?」
「え…?」
「最近様子がおかしいだろ?…俺が気づいていないとでも思ったか?」
「……」
「…悩みがあるんなら、いつでも言えよ?」


そう言って笑う南沢先輩はズルい。かっこいい。大好き。
…うん、そうだ。私は先輩が大好きなんだ。…それだけで、良いんだ。この気持ちに無理に名前を付ける必要なんてない。

そう思うと、今まで私の心の中にあったモヤモヤが一気に晴れていった。




この気持ちが恋ならば、私はゆっくりと距離を縮めていけばいい。

この気持ちが憧れならば、先輩に近づけるように頑張って努力していけばいい。



この気持ちを自覚する日が来るまで、私は先輩の隣でいつも通り笑っていたい。




「先輩」
「どうした?」
「優しい先輩が私は大好きですよー」
「どうしたんだよ、いきなり」
「ふふっ、これからもよろしくお願いしますー。…じゃあ勉強再開しましょうかー。此処の問題ってどうやって解くんですか?」
「あ、ああ…これはな」



どっちにしろ、私は先輩が大好きなのだ。
先輩が卒業するまで、近くにいることができたら、…それが私の幸せだ。






20120430




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -