イナゴクロノストーンのネタバレを含む、暗いお話です。そして浜野が鬼畜…というよりひどいです。苦手な方はご注意ください。









「俺さ、この部活入って本当に良かった。仲間と大好きなサッカーやって、くだらないことで笑いあったりする時間がすっげー好き。…でも、名前と一緒にいられる時間が一番すき。名前と知り合うきっかけをくれたサッカー部が、俺の幸せすべてをくれたこの部活が、俺は大好き」


ホーリーロードが終わった後、私は浜野くんに連れられて河川敷へとやってきていた。
オレンジ色の美しい夕焼けを見ながら、浜野くんは思い出したように話し始める。彼の右手は、私の左手をそっと包んだ。


「なあ、名前も俺と同じ気持ち?」

浜野くんの問いかけに、私はコクリと頷く。すると浜野くんはとても嬉しそうに笑いながら、私を抱き寄せた。
彼の温もりが心地よい。幸せが胸いっぱいに広がってゆく。


「だいすき、だいすきだよ、浜野くん」

だいすき、だいすき。溢れそうなその思いを、浜野くんは全部全部受け止めてくれた。…はずなのに。










「浜野くん…、なんで何も覚えてないの…?」
「…お前何言ってんの?ちゅーか何、突然」



何かが、変わってしまった。


私が風邪をひいて、学校を休んだ次の日。まず目にしたのは、野球部に占領された第2グラウンド。おかしいと思ってサッカー塔に行くと、ここも別の部活のものになってしまっていた。教室に行って浜野くんや速水くん、倉間くんに理由を聞こうと思ったのだが、3人が3人とも別の同級生と話をしていた。おかしい。いつもなら、3人で固まっていることが多いのに。サッカー部の2年トリオとまとめられるくらい、いつも一緒にいて仲がいいのに…。

とにかく話を聞かなければ。そう思い、私はすぐに自分の彼氏である浜野くんのもとに足を向けた。



「浜野くん」


彼に声をかけたら、浜野くんは私が見たこともない…怪訝そうな表情で私を見た。



「……何」
「え…」


もしかして、怒っているのだろうか?でも、なんで?
私が戸惑っていると、浜野くんと喋っていたクラスメイトが笑いながら浜野くんをど突いた。…?あれ、浜野くん…この子と仲良かったっけ?


「おいおい、浜野。苗字さん怖がってんじゃん。あんま睨んでやるなよ」
「うっせ。…ちゅーか何、なんか俺に用事?」
「あ、…あのさ、サッカー塔が、…サッカー部の部室が無いんだけど…、何かあったの…?」
「は?」
「…ほら、私…昨日休んだから…、突然だったから、驚いちゃって…」
「…お前さ、何言ってんの?」
「え?」


私がそう問い返すと、浜野くんは眉間に皺を寄せながら面倒くさそうにため息をついた。浜野くんの周りにいた男子生徒たちは首を傾げていた。…?
私が戸惑っていると、浜野くんはもう一度大きなため息をつく。


「ちゅーかサッカー部って何」
「え…?」
「お前が休んだとか、知らないし。ちゅーかお前、誰」
「おいおい浜野、クラスメイトの苗字さんだってー。つーか女の子にはもっと優しくしろよなー」
「だってコイツ意味わかんないし」


ケラケラとおかしそうに笑う浜野くんはまるで別人で。
冗談?何かのゲーム?…そうだよね、これは冗談なんだよ。私をからかおうって、みんなで計画を立ててたんだね。もう、冗談にしては性質が悪いよ。誰が考えたのかな?倉間くんとかかな?霧野くんかな?それとも、悪戯好きな狩屋くん?

明らかに違う教室内の、いや…学校の雰囲気を断ち切るかのように、私は声を上げた。



「浜野くん、もう…何言ってるの?」
「は?」
「お、おかしいよ、浜野くんも、みんなも。う、そ…ついてもバレバレなんだから」
「…は?」
「ひ、ひどいなぁ…、サッカー部のことも、何にも連絡なかったし…、…もしかして、あれも冗談なの?部室を移動とか…冗談にしては性質が悪いよ?」
「……」
「そろそろ、理由説明してくれないと、さすがの私も怒っちゃうよ?」
「お前さ、頭おかしいの?」
「っ…!?」


浜野くんは嫌悪感丸出しで、私を睨んでいた。
ビクリと身が震える。浜野くんのこんな顔、初めて見た…。…怖い、それだけしか感じなかった。



「ちゅーかさ、なんで俺に対して馴れ馴れしいわけ?気持ち悪いんだけど」
「は、まのく…?」
「言ってることもわけわかんねーし…、ちゅーかサッカーって…俺、サッカーなんてやってないし…マジ意味わかんね」
「ほ…んとうに、覚えてないの…?」
「だからさ、意味わかんねーし。…キモ」
「おいおい可哀そうだろ浜「…だいすき、って…」
「…は?」
「この前の、河川敷の、…だい、すき…って、言葉も、覚えてないの…?」
「お前さ、ホント何言ってるのかわかんねぇし、気味悪い。俺の前から消えてくんね?」
「っ…」



浜野くんの冷たい視線に耐えきれず、私は教室を後にした。

学校から出て、私は地面に座り込む。
どうすればいいのか、まったくわからない。
雷門のみんなが何かしらの理由で変わってしまった。そのことは、理解できた。そして、この空間が異様だということには、もう気づいている。あの浜野くんは、浜野くんだけど、浜野くんじゃない。

だけど…



浜野くんの、私を見るあの冷めた視線が怖くて…震えが止まらない。





「助けて…」


浮かぶのは、笑顔の浜野くん。私を抱きしめてくれた温かい腕。



「浜野くん…助けて…っ」
「…」



その時、私の後ろから近づく陰に気づけなかった。


















私は学校までの道を歩いてた。片手には楽器ケース、もうすぐ音楽部の発表会があるのだ。
神童くんの指揮で奏でる音楽、みんなの息がぴったり合う瞬間が、私は大好きだった。



ふと、途中の河川敷で足を止めた。最近、よくここで足を止めてしまうことが多い。何故かは、わからないけど。


「(…まあ、いいや)」



河川敷から顔を背ける。そのまま私は学校へ向かって歩き始めた。










++
「夢のはて」復活記念、かなこさんに捧げる浜野、鬼畜夢…のはずなのですが、かんっぜんに自己満小説で申し訳ないです。
かなこさんのみ、煮るなり焼くなりご自由にどうぞ!
バッドエンドで申し訳ないです。いつか、幸せ続編を書きたいね!


20120424



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