雷門と幻影の試合は、今までに見たことの無いくらい白熱したものだった。
特に最後のマボロシショット…。あのクールな真帆路くんからは考えられないくらいの熱さで放たれたそれは、残念ながら止められてしまったけど…だけど、本当にすごかった。真帆路くんも、どこか吹っ切れた様子で、天城くんとお話しているのを試合が終わってから目撃した。香坂さんの言っていた問題が解決したようで、良かった。…本当に良かった。それと同時に、私の役に立たなさを痛感する。やっぱり、私が真帆路くんの近くにいること自体、おこがましいんだよね。…これで決心がついた。…さようなら、真帆路くん。
試合後の後片付けをしながら、目に溜まった涙を拭っていた時だった。
「苗字さん!」
観客席から私を呼ぶ声がした。見上げると、香坂さんが息を切らして立っていた。
「香坂…さん?」
「探したの、…見つかって良かった…!」
彼女はそう言うと、私を手招く。とりあえず片づけを不知火兄弟に任せて、私は彼女に駆け寄った。
「どうしたの…?」
「真帆路くんが苗字さんと話をしたいらしくて。裏口に来て欲しいらしいんだけど…」
「真帆路くんが…?…でも…」
「せんぱーい、行ってきて大丈夫っすよ。もう片付けも終わるし」
「だーいすきな真帆路せんぱいを待たせちゃまずいっしょ?」
「ちょ、不知火くん!」
何を言っているんだこの兄弟は!こ、香坂さんの前で…!
慌てて香坂さんを見ると、にこにこと笑っていた。
「許可も出たことだし、行こう?」
「…う、うん」
香坂さんに手を引かれ、やってきたのは裏口。そこには真帆路くんが立っていた。
息が詰まるのと同時に、どうしようもなく悲しくなってくる。焦りを感じて、苦し紛れに香坂さんのほうを向くと、彼女は私に何かを手渡してきた。…紙だ。紙にはアドレスと電話番号が書いてある。
「それ、わたしのアドレス。困ったことがあったらいつでも連絡ちょうだい?あ、もちろんどんな話題でも良いよ。わたし、苗字さん…名前ちゃんと仲良くなりたかったの」
「え…」
「じゃあ頑張ってね」
そう言うと香坂さんは帰ってしまった。私があたふたとしていると、私がいるのに気づいた真帆路くんが私の苗字を呼んだ。
「ま、真帆路…くん…」
「…来て、くれたのか…」
「…う、うん」
久しぶりの、まともな会話だった。
「話って…何?」
「……」
真帆路くんは一瞬だけ苦い表情をした後、私を見る。
「お前に、謝らないと、と思って…」
「……」
「…もちろん、謝って許されることではない。…だけど、俺は…」
「…良いよ」
「…え?」
私がそう言うと、真帆路くんは驚いた様子で私を見てきた。
…でも、もう良いんだよ。私のことは気にせずに、真帆路くんは香坂さんとの幸せを考えたほうが良い。
私がそう言うと、真帆路くんは訝しげに私を見てきた。
…隠さなくたって分かるよ。だって私はずっと真帆路くんを見てきたんだから。真帆路くんの好きな人くらい、分かる。
だから、真帆路くんは私のことなんかより、香坂さんのことを第一に考えるべきだ。
そう言うと、真帆路くんは本当に困ったという顔をした。
「お前は、…何を言ってるんだ?」
「…言った、通りだけど…」
「…お前は、誤解している」
「え?」
私が聞き返すと、真帆路くんは少しだけ困ったように私を見て、それから少しだけ考えるような仕草をして、それからまた私を見てきた。
「お前は、俺が香坂のことを好きだと、思っているのか?」
「え…?そうなんでしょ…?」
「…違う。…俺が好きなのは…。…っ、お前、だよ」
顔を真っ赤にしながらそう吐き出した真帆路くん。
…え
「え」
「……っ」
「…真帆路くん、」
「…なんだ」
「…真帆路くんの、好きな人って…」
「…っ、だから、何度も言わせるな。…お前、だよ、苗字」
「…っ!」
え、え、え…
いきなりの言葉に、今度こそ息が詰まった。
そんな私を無視して、真帆路くんは話始める。何故私を好きになったのか、幻影に入って私と初めて話した日のこと、そしてあの行為のこと。
私がどこへも行かないように、必死に抱いた。申し訳なさもあったけど、それ以上に私を繋ぎとめておきたかった、らしい。
その言葉を聞いて、私はヘナヘナと座り込む。…まさかの出来事だ。…真帆路くんは、私のことが、好きだったんだ。
「…真帆路、くん…」
「…な、んだ」
「……かならずぼくが そばにいて ささえてあげるよ そのかたを」
「っ…」
「…私が傍に、いても良いの?」
「…、……もちろん、だ」
その日、私と真帆路くんは初めてキスをした。
伝わるぬくもりは本当に温かくて、優しくて…。順番を間違えてしまったつぎはぎだらけの恋だけど、…これから二人で修正していこう。
あいを、求めていた私たちは、希望のほしを見つけました。
20120212