「苗字さん…だよね?」
「…、香坂、さん…?」
「うん、香坂幸恵。よろしくね」


わたしは苗字さんを探して学校中を歩き回っていた。
理由は、明日が天城くんの通う雷門中と幻影学園が対戦するからだ。

仲直りする良い機会だと思う。あの時から大分時間だって経った。わたしはあの頃のように二人に笑顔でいてもらいたい。
そのためには、苗字さんの協力も必要だと思った。


真帆路くんの想い人、苗字さん。小さい頃に聞いたあの歌は、忘れることが出来ないくらい素晴らしいものだった。
残念ながら話をする機会が今までなかったのだが、友達伝いに彼女の噂は聞いている。とても優しくて良い子だ、と。
幻影に入ってから、真帆路くんとも仲が良いみたいだし…彼女ならきっと力になってくれる、と思った。…それに、最近の真帆路くんの様子がおかしいことにも、きっと気づいているはずだ。そのことも含めて相談してみよう、と思っていたのだが…。



「泣いてる…の?」
「…!…う、ううん…なんでもないよ」


苗字さんの瞳は濡れていた。
…一体どうしたんだろう。


「そ、それより…香坂さん…どうしたの?突然」


話題を変えられてしまった。…深く追求しないほうがいいのかもしれない。出会ったばかりのわたしに話せといわれても、無理だろうし。
とりあえず、真帆路くんの話をしてみることにした。



「…そういう事だったんだね」


苗字さんは、真帆路くんが苛められていたことを知っていた。まあ、それは当然だろう。結構、有名な話だったし…。
とにかく天城くんと真帆路くんを仲直りさせるために、苗字さんから真帆路くんに話をしてもらいたい、そう言うと、苗字さんは困ったように笑った。



「私なんかより香坂さんが話すほうが良いと思う」
「…え」
「私はただのマネージャーだよ。…香坂さんは真帆路くんにとって、幼馴染で…一番近くにいてほしい人だろうから…」
「それってどういう…」
「…っ、ごめんなさい。先生に呼ばれてるの、ごめんなさい!」


苗字さんは一気に捲くし立てると、鞄を持って教室から出て行ってしまった。
呆然と立ち尽くしていると、学校の外を傘もささずに走り抜けていく苗字さんの姿が。

そこでわたしはハッとする。
先生に呼ばれていたという彼女の話はウソだった。…それは、彼女を傷つけてしまったかもしれないという事。

苗字さんは言っていた。私はただのマネージャー。香坂さんは真帆路くんにとって、一番近くにいてほしい人。
だけど、それは間違いだ。ずっと昔から、真帆路くんは苗字さんのことが好きだった。それは幼馴染のわたしや天城くんがよく知っていること。

彼女は勘違いしている。そして、勘違いによって傷ついている。ということは…



「……真帆路くん…、苗字さんはあなたのことが…」


わたしの声は暗闇の中に消えていった。
















雷門との試合の日がやってきた。
昨日は色々考えてしまって、眠ることが出来なかった。極力真帆路くんを見ないようにしながらスタジアムへ向かうバスに乗り込む。昨日の雨はウソのように晴れていた。


「フィフスセクターに反抗している雷門は潰さなければならない」

監督が試合の前に言った一言に、幻影のみんなは強く頷く。
その中で、私は溜息をついた。…この試合が終わったら、マネージャーを辞めよう。





20120212


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