絶頂間際、苗字の顔が切なく歪んだ。彼女の何かを堪えるような顔を見るたびに、俺の心は締め付けられる。
だが俺はあえてそれを無視して、律動を早める。彼女の中はとても温かくて、すべてを包み込んでくれるようで、気持ちよかった。だけど、それと同じように罪悪感も湧き上がってくる。

この行為を始めてから、一ヶ月以上も経っているにもかかわらず、苗字は強い抵抗してこない。そんな彼女に少しだけ期待もしたりしたが、それこそ都合の良すぎる話だ。
…こんな一方的な行為は最低なことだと、曲がったことだと分かっている筈なのに止めることができない。


欲望を吐き出し終えた後、俺は衣服を整え彼女を見ないようにシャワールームへ向かった。




「はぁ…」


シャワーを浴びながら零れるのは重たいため息。
…俺は一体何がしたいのだろうか。




苗字とは幻影学園の選手とマネージャーの関係だ。
彼女とは小学校も一緒だったのだが、その頃は会話をしたことがなかった。

だけど、俺は彼女を知っていた。…一目惚れ、だったんだ。
あれは確か小学二年生の頃だったと記憶している。俺の通っていた小学校では毎年「歌のコンクール」というものが秋に開催される。個人参加型のイベントで、その年に優勝したのが苗字だった。
圧倒的だった。…歌には興味のない俺でさえも、真剣に聞いていた。透き通ったよく通る声で歌う彼女に、目を奪われた。

それから学校内ですれ違うたびに目で追った。(それをよく天城や香坂にからかわれたりもした)だけど、直接会話をしたことは、一度もなかった。


幻影学園に入学して、サッカー部に入部すると彼女も同じようにマネージャー志望で入部していた。色々あって塞ぎこんでいた俺だったが、彼女が一緒の部活だとわかると少しだけ救われたような気持ちになった。
会話だって出来るようになったし、一緒にいる時間も増えて、恥ずかしくて想いを伝えることは出来なかったが、幸せだった。…だけど、3年になってすぐのことだった。


TV中継で見た、雷門中の試合。フィフスセクターに逆らう生徒の中に、天城がいた。
苛められていた天城が強くなって、強く強大なものに立ち向っていっている。…それなのに、俺はどうだ?昔と変わらず、逃げることばかりを選択してしまっている。
天城は変わった。だが俺はどうだ?

そう考えると自分が情けなくなっていき、それからどうしようもない焦燥感に駆られる。



ふと、部員と楽しそうに談笑していた苗字の姿が目に入った。
駄目だ、駄目だ。そんな顔を他の奴に見せないでくれ。苗字が傍にいてくれるだけで俺は救われていたのに、お前も…天城と同じように他の奴のところへ行かないでくれ。変わらないでくれ。俺を一人にしないでくれ!

それはめちゃくちゃな感情だった。気がつけば俺はシャワールームまで苗字を引きずって来ていた。抵抗されたけど、抑え込んで、無理矢理、俺はは苗字を抱いた。







シャワーを浴びた後、俺は苗字がいる部室へカバンを取りに入る。
そして俺は苗字を見ないようにしながら、部室を後にした。

あの日以来ずるずると関係が続いている。今では彼女とまともに会話が出来なくなってしまった。まあ、当然だろう。
彼女の笑顔をもう一度見たい。…だが、自業自得なのだ。俺が招いてしまった結果がこれなんだ。

曲がった事とわかっていても、俺はこの関係を止めることができない。なぜなら、もうこの行為しか俺と苗字を繋ぎとめるモノは無かったからだ。



ただ、次の行為で彼女が抵抗してきたら…。
俺はこの行為を止めようと思う。

抜け出したいけど抜け出せない。弱い俺は行動を起こせない。…誰か、助けてくれ。苗字、助けてくれ。





【明日、今日の時間と場所で】



期待と不安、たくさんの意味が詰まった感情を殺して、俺は苗字にメールを送った。





20111227

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -