※もしも天河原が廃校になったら、設定で書いてます注意!












それは突然だった
かかってきた一通の電話、震える、キャプテンの…喜多くんの、声



「天河原が、天河原が…!」















日付も変わりそうな頃、私は寝巻きのまま天河原中までの道を走る。
心臓が煩いくらいに鳴り響いて、気持ち悪い。震える片手には携帯電話を握り締めて、私はただひたすら走った。

天河原に着いた。学校の周りには生徒がたくさんいた。その中に見覚えのある金髪を見つけた。


「に、しのそ…らっ!」

息も切れ切れに、私は彼を呼んだ。振り返った西野空の顔は、死んでいた。


「苗字…、ぼ、ぼく…ぼく」
「西野空…っ」
「わ、わけわかんないよぉ…わかんない、どうしてこんな…こんなっ…」
「西野空、苗字っ!」


地面に崩れ落ちた西野空。そばにいた安藤先輩が駆け寄ってきてくれる。
嗚咽を漏らしながら泣く西野空にかける言葉も見つからず、私はその場から逃げるように去った。



私が生徒の波を掻き分けてキャプテンを探している時だった。辺りに轟音が鳴り響く。驚いて校舎のほうを見ると、恐らく天河原中で一番立派な建物…サッカー塔が壊され始めていた。



「ぅ、ぁ…」



声に、ならなかった。
先ほどの西野空と同じように、私もその場に崩れ落ちる。周りの生徒たちが混乱し、辺りは騒がしくなる。先生たちが懸命に混乱する生徒たちを落ち着かせようとしていた。その中には観月先生の姿もあったけど、先生も先生で今にも泣き出しそうで。



天河原の、終わり。





本当に、そうだった。
まさかフィフスセクターが、こんなことまでするとは思ってなかった。きっと、他校への見せしめという理由で、私たちの天河原は、無くなるんだ。

ガタガタと身体が震えて、痛い。痛い痛い痛い、混乱して、煩くて、気持ち悪くてめちゃくちゃで、助けてほしい、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?私たちはただ、普通のサッカーをしたかっただけなのに、普通の学生生活を送りたかっただけなのに


遠くで、サッカー部でシードだった隼総くんが、周りの生徒たちに攻め立てられているのが見えた。
みんな、誰を攻めていいか分からないんだ。サッカー部を攻める、そもそもの原因の雷門を恨む、フィフスセクターを恨む、シードを恨む。誰を攻めていいのか、私だって正直わかんない。先輩として、隼総くんを助けなくちゃいけないのに、行動を起こす気力さえ無くなってしまう




崩れていく校舎。

崩れおちる生徒。

崩された日常。

崩される思い出、天河原での、思い出、…サッカー部での思い出、…喜多くんとの、思い出。






「苗字」


後ろから、抱きしめられた。
止まっていた涙が、その声を聞いただけで溢れ出す。



「う、ぁ…ぁ」
「苗字、」
「喜多く、き、たく…」
「ごめん…ごめん、ごめん」


ひたすらごめんと繰り返す喜多くんに、私は何も言わなかった。…言えなかった。














その後、地区の関係で私たちサッカー部の転校先はバラバラになってしまった。
みんなとは連絡を取り合ったりするんだけど、もうあのユニフォームを着て、あのグラウンドで練習することは二度とできなくなってしまった。

天河原があった頃、朝から晩までサッカー部のみんなで練習して、それから放課後は毎日喜多くんと帰ってた。家の前まで手を繋いだりして、照れくさかったけど、とても幸せな毎日だった。休日にはみんなで出かけたりして、プリクラ撮って、西野空がいっつも変顔して、星降の買い物に数時間付き合ってヘトヘトになって、隼総くんをからかって、安藤先輩が馬鹿なこと言って、それから、喜多くんと顔を見合わせて笑うんだ。




天河原がなくなった日

返してと叫びたい




20120122



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