(年齢操作/バイトみ沢先輩)





狭い空間に、たくさんの洗濯物に囲まれながら座る男が一人。…俺だ。
大学に入った俺は将来のことを具体的に考えていた。大学を出た後就職するにしても、何をするにしても金が必要だ。大学3・4年にもなるとこれまで以上にやれ就職活動やら何やらでバタバタ忙しくなる。だったら稼ぐなら今だ、と思った。


だが、どこでも良いというわけではない。考えてみろ。例えば俺がハンバーガー屋でスマイルを振りまくんだぞ?…ありえないだろ。それに飲食店は知り合いが来る可能性が高い。知り合いに仕事姿を見られたい奴もいるだろうが、俺は違う。条件1は知り合いが来ない店、だ。
条件2は給料が良い。まあこれは当然だな。最低でも自給1000円前後じゃないとな。
条件3は家から近い、だ。これに限る。
条件4は力仕事じゃない仕事。翌日に響いて授業聞きそびれたら元も子もないからな。

とにかくそんな条件で店を探していたら、一枚の広告を見つけた。「クリーニング屋のバイト募集」…俺の条件にピッタリだった。同級生や後輩が、クリーニング屋に来るか?来ないだろ。来るとしても主婦とか三国くらいだろ。はい条件1クリア。
自給は950円から、働きによっては高くなっていく制度だ。条件2クリア。
そして家から歩いて2分の場所にある。条件3クリア。
仕事内容はクリーニングの受け取り受け渡し。奥に店長のおばさんがいるだけで、一人でカウンターに座っていれば良い。条件4クリア。




ということで簡単な面接を済ませ、合格。そして今に至る。
俺は仕事も完璧だったので、近所のおばさんたちからの評判も上々。容姿も相まって今では俺目的でやってくるおばさんもいるくらいだ。当たり前のように給料も上がっていき、仕事にも慣れて、おばさんのアタックにも慣れた時だった。カランカラン、とドアが開く音が響く。スマイルを貼り付けて「いらっしゃいませ」と言いながら顔を上げた瞬間、ブフッ!っと響き渡る噴出した音。…そう、入ってきたのは中学の時の後輩マネージャー、苗字名前だった。


「っ!!!」
「ぶっははっ!み、南沢先輩こんなところで何してるんですか!」
「笑うんじゃねぇ!」
「南沢くーん、何かあったのー?」
「い、いえ何もありません!」


店長が店の奥から声をかけてきたので慌てて返事をすると、ニヤニヤ顔の苗字が目に入る。ウザ。
店長の返事が聞こえてから、俺は目の前にいる苗字を睨み付ける。


「こんなとこで何してるんですか?」
「…バイトだよバイト、見て分かんねぇのか。つーかお前こそ何しに来た」
「クリーニング出しに来たんだよ、見て分かんねぇのか」
「マネすんじゃねーよ」
「ていうか、あの南沢先輩がクリーニング屋でバイトねぇ…ブフォ!」
「きめえ」

ニヤニヤしながら俺のほうにコートを渡してくる苗字。そういえばコイツに会うのは久しぶりだな。昔から顔は良いと思っていたが(ただし性格が残念)…。今はなんつーか大人っぽくなって、女らしいというかって何考えてんだ俺。



「なんでクリーニング屋なんですか」
「条件にピッタリだったんだよ」
「条件?」
「でもたった今崩されたがな」
「ああ、もしかして知り合いが来ないように?それはそれはすみませんねぇ」


顔面をこれでもかと崩しながら笑いをこらえる後輩を殴っていいですか?いいですよね?
拳を握り締めながら苗字を見る。こいつのことだから、倉間とか浜野に言って後日一緒にからかいに来るパターンなんだろ?そうなんだろ?

そう聞けば、苗字はニヤニヤ顔を更にニヤニヤさせながら俺に言った。



「それも楽しそうですよね」
「チッ、こっちは真面目に働いてんだぞ」
「真面目って言葉、先輩似合いませんよねー」
「どういう意味だソレ」
「んー…でも、安心してください。誰にも言いませんし」
「は?」


まさかの言葉に俺は驚いてしまう。昔はネタを握ったら面白がってゴキブリ並のしつこさでからかい続けたコイツが、今何て?
すると苗字は目を細めて、笑いながら俺を見る。…少しだけドキッときたのは気のせいということにしておこう。



「ださいエプロン一枚で洗濯物に囲まれてる先輩を独り占めしたいなーって」
「は「じゃあまた三日後に取りに来まーす!また相手してくださいねー!」


俺の言葉を遮り苗字は手を振りながら店を後にした。
…ちょっと待て今のどういう意味だ?

再び、心臓が鳴る。今度は気のせいでは済みそうになかった。





*
お仕事しましょ?に提出しました。提出って言うのかな?(笑)



20120107



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