俺の隣の席の苗字は変わった奴だ。

授業中はいつも話を聞かずに持参してきた折り紙で何かを折っている。休憩時間も友人とは話さずに折り紙を折り続ける。だが彼女は友達がいないというわけでもない。元気で明るい性格で、周りからも慕われている。だが、彼女はいつも折り紙を折り続けているのだ。



「千羽鶴ってお願いが叶うんだよね?」

数学の授業の後、苗字が俺に話しかけてきた。ああ、なるほど。千羽鶴を作っていたのか。彼女の手元を見ると中途半端な形の折鶴もどき。
慰安や病気見舞いなどに人に贈ることが多いはずだが、願いを叶えてくれるという説は俺は聞いたことが無い。そう答えると、そっかーと間延びした声で返事をされる。そのまま苗字は中途半端な折鶴を折るのを再開した。苗字は何か願い事があるのか?それとも近くに病気の人がいるのだろうか。


来る日も来る日も苗字は千羽鶴を折り続ける。
苗字の机の横には手提げ袋が下げられており、その中に毎日鶴をためていく。
先ほども言ったが、彼女は友人がたくさんいる。当然友人たちは苗字の千羽鶴作りを手伝おうとするのだが、彼女はそれを全て断る。何でも、自分だけの力で作り上げたいらしい。…よく分からない。



そしてあくる日、苗字がスキップしながら登校してきた。片手には繋がれた千羽鶴。完成したのか…。
クラスメイトにおめでとうと言われ照れる苗字を横目で見て、それから俺は教科書を取り出す。すると、隣の席の椅子が引かれた。苗字が席にやってきたのだろう。

すると、開いていた教科書の上に色とりどりの折り紙で折られた…千羽鶴が置かれた。
訝しげに苗字を見ると、ペットボトルの水を飲みながら俺のほうを見ている。…いったい何だ、自慢でもしたいのか?


「それ、真帆路にあげる」
「…は」


それだけ言って、苗字は席を立ち上がり教室を後にした。
…俺は、どうしたら良いんだ。

らしくもなく戸惑いながら苗字の置いていった鶴を見ると、あることに気づいた。
鶴に、顔が書かれてあったのだ。それも、全部に。…笑顔の鶴が千羽、俺を見た。それから、鶴を括ってある紐の部分にマジックで何か書かれてあった。




笑わないストライカーさんへ
俺の隣の席の苗字は、本当に変わった奴だ。




20120104



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