(GO30話ネタバレ、捏造有り)








竜吾と結婚してからずっとイタリアに住んでいたものだから、ずいぶん久しぶりに日本の空気を吸った。
竜吾と私は荷物をホテルに預けて、それからすぐに雷門が木戸川と戦っているスタジアムへと向かう。稲妻町を去ったのは数年前だけど、近代化というか…都市開発が進んで、全く知らない稲妻町になっていた。少し悲しいな、なんて思いながら私は差し出された竜吾のごつい手を握り返した。



「錦くん、元気かな?」
「どうだろうな。環境の変化に適応できないところがあるからな、心配だぜ」
「それは大丈夫なんじゃないのかな。確かに、日本からイタリアへ来たときは酷かったけど、今度は故郷に帰るんだから戸惑うことも無いでしょ」
「アイツがイタリアに来たときは…本当にすごかったな」
「そうだったね…」


雷門中二年生の錦くんは、イタリアにサッカー留学していた。そのときにうちに居候してたんだけど、イタリアに来てから1・2ヶ月…それはそれは酷かった。
まずはイタリアの食材が喉を通らなかったのだ。それに、水も日本のものとは違うから飲めない、そしてストレスからくる腹痛で、トイレに立てこもり…。なんというか、見ているこっちが苦しくなったなぁ。まあ、慣れてくれたからよかったんだけど。

今回日本に来た理由は、錦くんが大会に出ると聞いた竜吾がいてもたってもいられなくなって、飛行機の搭乗券を買ったからだ。まあ、里帰りもしたかったし…ちょうどよかったよね。



「ま、元気なら何でも良いんだけどな」
「ふふっ、竜吾はホントに錦くんが大好きだねぇ」
「大好きっつーか…、放っておけないんだよ。…まあなんだ、でかいガキがいたようなモンだろ?」
「竜吾って面倒見良いし、案外保父さんとか向いてたかもね〜」
「俺がかぁ?ガキが怖がるだろ」
「自分で言っちゃうの?」


2人で少しだけ笑って、それから真っ青な空を仰いだ。
10年前、部員とマネージャーだった私たち。あの頃は竜吾がこうしてずっと隣にいる存在になるなんて思ってもいなかったなぁ。

これから先もずっと一緒にいたいなぁ。竜吾と一緒にたくさんの幸せを感じて生きたい。そう、例えば…子供、とか。
先ほどの話で、子供のことを意識してしまったのは私だけじゃなかったみたいだ。隣を歩いていた竜吾が少しだけ恥ずかしそうに口を開く。



「名前は…、ガキ、欲しいか?」
「…え」
「結婚して、結構経っただろ。…俺は、そろそろ、良いと思ってる」


普段は照れて自分の本音を言わないことが多い竜吾が、恥じらいながら口にした言葉。
そっか、竜吾はそう思ってくれていたんだ。


「私も、…赤ちゃん…欲しいな」
「そ、そうか…」
「…イタリアに帰ったら、頑張ってみる?」
「馬鹿、女がそんなこと言うな」


ポカリと私の頭を叩いた竜吾だったが、その顔は嬉しそうに笑っていた。
釣られて私もとっても幸せな気持ちになる。竜吾の指に自分の指を絡めて、彼を感じた。



「まぁ、今は目の前のデカいガキだな」
「そうだね、錦くん…頑張ってくれるといいなぁ。……あ、そうだ」
「あ?どうした?」
「錦くんに差し入れ、持って行かない?」
「差し入れ?…握り飯とかか?」
「うん、ほらちょうど木枯らし壮が見えてきたし、秋に台所貸してもらおうよ」
「すげぇタイミングだな」
「じゃあデカイ子供のためにレッツゴー!」



私たちはたくさんの人に支えられながら生きてきた。
次は私たちの子供を私たち2人で支えることが出来るように、2人一緒に歩んでいこうね。
幸せを感じながら、私たちは木枯らし壮のチャイムを鳴らした。







20111201




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