「じゃあまたねー!あ、明日新刊絶対に持ってきてねー!」
「あはは、わかってるよ」
「じゃあばいばーい!」

私に手を振りながら帰っていく友達たち。彼女らが完全にいなくなってから、私は目の前にある誰のかわからない机を倒れない程度に、だけど力一杯蹴った。


「クソうぜぇな、調子乗んなよ馬鹿」

私は性格がとても悪い。だけど世渡り上手で友人は多い。そのため、大抵の人間に好かれる。好きな人にも、もちろん嫌いな奴にも。さっきの奴らはウザイ。クラス内で調子に乗って騒ぐウザイ女たち。集団で群がりやがって。トイレにも一人で行けないとか気持ち悪いんだよアホ。

あ゛ーくそイラつくなぁ、クソ。
冷めやらない気持ちを落ち着かせるため、教室の壁を蹴り続けていると、教室の入り口のほうから物音がした。…ので、急いでスカートを整えて自分の席へ移動して課題を取り出した。



「あれ、苗字さん。まだ残っていたんだね」
「…ああ、狩屋くん。そうだよ、今日の課題学校でやっちゃおうと思ってさ」

入ってきたのはこの間転校してきた狩屋マサキ。周囲に笑顔を振りまいてる優男だ。私の一番嫌いなタイプ。偽善者。ケッ、クソウゼェ。
だがそんな狩屋にも笑顔で話しかける。だって、私は良い子ちゃんだから。

狩屋は何事も無かったように私に話しかけてくる。先ほどのはバレてなかったみたいだ。安心安心。



「その課題難しいよね、俺…わかるかなぁ?」
「(知るか)んー、ガンバレ」
「……、…そういえば苗字さんって頭良かったよね?」
「(ゲッ、まさかこの展開は…)そんなことないよ」
「うそだぁ、だって天馬くんたちが言ってたよ。苗字さんは本当にすごい!って!……良かったらさぁ、俺に教えてくれないかな〜、勉強」
「え、」
「?駄目、かな?」
「…………、い、いいよ」
「………そっか、ありがとう!じゃあ俺、プリント持って来るね」

ニコリと穏やかに笑った狩屋の後姿を見ながら、顔を歪める。最悪。くそ、松風余計なこと言うなよ射るぞクソ。



「よし、じゃあよろしくお願いします!」
「うん、それで…どこが分からないのかな?」
「そうだなぁ、ここが…」




狩屋のクソヤロウに教えてあげ始めてから10分が経過した時だった。
「そういえばさぁ…」と狩屋が言う。


「苗字さんって、すっごく性格悪いんだねぇ」
「…は?」


いきなりの話題に、私は驚いて目の前の狩屋を見る。すると、また驚くことになる。
いつもあんなに穏やかな表情をしている狩屋からは想像もつかないような、厭味たらしい顔で私のことを見ていた。


「か、狩屋くん…?」
「とぼけたって無駄だよ。さっき、物凄い暴言穿きながら机とか壁蹴ってたでしょ?」
「そ、れは…」
「あの机、俺のなんだけど」
「ひっ…!」


一気に顔を近づけられて、情けないが驚いてしまった。
だ、だってしょうがないじゃん。い、いきなりの変貌だよ?え、なに、狩屋って性格隠してたわけ?



「な、っ、な、なんなのよアンタ!」
「ははっ、もしかして苗字さん、気は強いくせにヘタレ系ってやつ?たくさん吠えて何もしないタイプなんだぁ〜」
「うううううるさいっ!」
「世渡り上手って思ってるけど、嫌われるのが怖いからあわせてるだけで、文句だれだれって、情けないなぁ」


狩屋の言葉が胸に刺さる。ううっ、わ、悪いか!小心者で悪いか!



「一人じゃな〜んにも出来ない、弱虫ってことかぁ」
「っ、ううっ、うっ…」
「…その上泣き虫だなんて、っぷ、あははっ」



普段は人の悪口ばかり言って、人当たりは良いからこうして面と向かって悪く言われたことのなかった私に、当然耐性はなくて、すぐに涙が零れてしまった。
それを見た狩屋はまた面白そうに笑った。

そして、瞳をギラリと光らせて、私の耳元で低く言葉を放つ。




「そんなトコも可愛いけどね」
「っ!」
「…ねぇ、泣いたコトも性格のコトもみんなを悪く言ってたことも全部黙っててあげるからさ」
「…、」
「俺の下僕になってよ」
「っ…!!」



目を見開いた私を見て、狩屋はまた、怪しく笑った。





20111228




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