(年齢操作/大学生南沢)








「ごめん、少し遅くなる」




南沢くんからのメールに返事を打って、携帯をパタンと閉じる。
時刻は20時半。喫茶店の店員さんが話しかけてきた。「申し訳ありませんがお客様、閉店のお時間です」

飲んでいたカフェオレを急いで口の中に入れる。温かかったそれは、もうすでに冷たくなっていて、急いで飲んでも火傷をすることはなかった。


夜の繁華街に昼間の賑わいはなく、ネオンに彩られた美しくも妖しげな雰囲気に包まれていた。大学生といっても、まだ未成年の私には縁のない世界。一人で足を踏み入れるのは、当然初めてだった。
喫茶店に入る前は賑わっていた通り。だが、通りに面している店はほとんどシャッターで閉められており、かろうじて開いている店も、店員が忙しなく店の外に出してある商品を片付けていて、閉店モードだ。さて、どうしようか。

携帯を開いたが、南沢くんからのメールはなし。ため息をついて、私は喫茶店をあとにした。


この辺りでも一番色んな店があって、長い通り。仕事帰りや学校帰りなのか、サラリーマンや学生が駅に向かって足早に通りを歩いている中、私はそんな人の波を逆走しながら歩いた。
すると、通りの端にスーツを着たお兄さんたちが2・3人、こちらを見て何やら話していた。


「(ホ、ホストだ…!)」

昼間は絶対にいない、ホストたち。そそ、そういえば夜にこの通りを歩いてたらホストに声かけられて、いかがわしいホテルにテイクアウトされた事がある友達がいるとか何とかっていう話を友達に聞いた気がする。怖い!やばい!私は、グルッと旋回した。ダメだ、戻ろう。


「ねえちゃん可愛いねー!」

!!!!!???

驚きながら視線を向けると、チャラチャラ系のお兄さんたちが、露出の高い服を着たお姉さん二人組に話しかけていた。
そして、少しだけ言葉を交わしたあと、お兄さんたちがお姉さんの腰に手を置きながら、そのままどこかへ行ってしまった。…な、な…なにあれ…。混乱していると、肩をトントンと叩かれる。後ろを振り返ると、知らないお兄さんが、チラシを差し出してきた。


「バイト募集してるんだけど、どうかな?」

…チラシには、オブラートに包んであるけど、明らかに法律違反なバイト内容が書いてあった。………、……。私は無視して、その場を立ち去った。そんな対応になれているのか、お兄さんはもう違う女の子に話しかけていた。



…どうしよう、怖い。客寄せをする外国人の片言な言葉も、ホストもお姉さんもお兄さんも、みんなみんな怖い。どうしよう、怖いよ南沢くん…っ
唯一開いていた喫茶店にも、派手な服を着た人たちがたむろしていて、臆病な私が入れる雰囲気ではない。コンビニに入ったけど、長居はできない。携帯を開いてもメールはない。時刻は21時を回っていた。紅茶を買ってコンビニを出た私は、急いでシャッターが閉じていない安全な店を探す。


すると、通りの端にある古ぼけた本屋に灯りがあった。私は急いでそこまで走り、中を覗く。すると、そこには帰宅途中のサラリーマンやOLがいて、非日常から日常に戻ったような、安心感が私の心を覆った。早速中に足を踏み入れる。本屋独特の香りが、また私の心を落ち着ける。


携帯を開くと、南沢くんから一通のメールがきていた。「いま、どこだ?」そのメールに返信せずに、私は南沢くんの携帯に電話をかけた。
南沢くんはすぐに出てくれた。「名前」…その声に安心する。


「南沢くん、本屋にいるよ」
「本屋?」
「外、一人で出るの怖いから、きて?」
「…○○書店?」
「そうだよ、灯りがついてる………南沢くん」


ぎゅっと、右手に感じる温もりになんだか泣きそうになる。振り返ると、息を切らした南沢くんが立っていた。


「待たせて、ごめん」
「気にしてないよ」
「手…震えてるぞ」
「……本当のことを言うとね、ちょっとだけ怖かったんだ。夜ってこんなに怖いんだね」
「名前…、本当にごめん」
「……じゃあ、南沢くん。ぎゅって手を握って?」
「…ああ、…ああ。わかった」


南沢くんが、手に力を入れる。


「夜の街って、ちょっとだけ憧れてたりもしたんだけど…、やっぱり私には合ってないな。…あ、でも南沢くんには似合うよね」
「どういう意味だ?」
「夜の街で遊び倒してそう」
「……お前は俺にどんなイメージを抱いてるんだ」
「あははっ」


南沢くんと2人、夜の街を歩く。隣を歩く南沢くんの顔を見る。
2人だと、やっぱり怖くない。ホストがいたって、客寄せの外国人がいたって、怖いお姉さんお兄さんがいたって。でも、もちろん誰でも良いわけではないと思う。南沢くんだから、…南沢くんと一緒だから、怖くないんだ。私にとって、南沢くんがどれだけ大きな存在かが分かった。


「…、見られると気になるんだけど」
「かっこいいな〜って思って」
「…馬鹿」


照れたのか、視線を泳がせる南沢くんの腕に抱きつくと、南沢くんはそっと私の方へ身を寄せてくれた。
大人になっても、隣に南沢くんがいてくれたらいいなぁ。…隣の南沢くんの温もりを感じながら、私は顔をほころばせた。






20111119



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