この間南沢先輩に先輩の家に連れ込まれて、無理矢理抱かれた。
だけど…先輩が私の手を掴んで引っ張って行く時も、私を先輩の匂いがするベッドに押し倒した時も…始終、悲しそうな顔をしていた。だけど私も突然だったため、混乱していた。だから、その時は理由を聞けなかった。…そして私は、この時に行動を起こさなかった事を後悔することになる。

あの日から3日後…三年の先輩たちから聞かされた、南沢先輩が転校してしまったという話。その事実を知らなかった部員たちが驚く中、私は全てを悟った。
私と南沢先輩は両思いだった。これは自惚れではない。南沢先輩は私の事を本当に大切に扱ってくれた。…私たちが恋人という関係でなかったのは、お互い…告白するタイミングが掴めなかっただけだ。だけど、南沢先輩は転校することになった。理由はわからないけど、黙って転校するという事は…簡単には人に言えないことなのかもしれない。


…先輩の家に連れ込まれたあの日、南沢先輩は何かを訴えるように綺麗な顔を歪めていた。もしその時、私が何か声をかけていれば…南沢さんの近くに歩み寄れていれば…。何か変わったのだろうか?


南沢先輩がいなくなった私の日常はモノクロになっていく。色づいていたものが、色を失っていく…。失ってから気付いた、この溢れるくらい大きな想い。
想いを伝えておけば良かった、そんな後悔だけが…ずっと私の心に纏わりついて離れなかった。通じない電話、送れないメール。…想いだけが膨らんでいく。







月山国光との試合の前、久しぶりに南沢先輩の顔を見た。敵になってしまったという悲しみよりも、転校先で上手くやれていることにホッとした。
南沢先輩と一瞬だけ目が合った。…すぐに逸らされた。ああ、南沢先輩南沢先輩…。ポッカリと穴が空いてしまった心に、風が吹いた。

試合の最中、愁いを含んだ瞳で雷門イレブンを見る南沢先輩に気付いた。そこは確かにあなたの場所だった、でも…今は。
南沢先輩の瞳が一年生を射る。…私も、南沢先輩と同じように彼を憎んだこともあった。南沢先輩が辞めたのは、彼のせいだってずっと思っていた。…だけど、私は…私たちは心を動かされた。あの倉間もだよ、先輩。

どちらも正しかった。そう、どちらも正しかったの。先輩も、彼も正しかったの。少し考え方が違っただけ。先輩のサッカーに対する強い強い気持ち、私は知ってたよ。だから、ほら…。

良い意味で南沢先輩らしくない、熱いプレイ。先輩の名前は「篤志」…読み方を変えたら、「とくし」…志があついって意味。先輩は、思いの強さで月山国光イレブン、監督まで動かした。ゴールを決めた先輩、頭が良い先輩…どんな先輩よりも輝いて見えたよ。



月山国光イレブンとサッカーをする南沢先輩。…ああ、先輩はもうスッカリあの一員になって。
そこで私は気付く。…自分など、さして何も影響していなかったことに。南沢先輩の隣に立っていると勝手に勘違いして、先輩に頼ってほしがっていた…情けない私。…これで、良かったのかもしれない。きっと、南沢先輩は月山国光に残る。…南沢先輩は南沢先輩の、私は私の…違う道を歩いていこう。









「名前っ!」

キャラバンに乗りかけていた私を呼ぶ声。いつもより余裕のない声に、私は少しだけ驚きながら振り返った。
南沢先輩が肩で息をしながらこちらを見ていた。…神童くんたちにOKを貰って、私は最後のお別れをするために南沢先輩の下へ向かう。


「…お久しぶりです、南沢先輩」
「…名前、俺は…」
「アドレス、変更したの教えてくれませんでしたね。地味にショックだったんですよ」
「……」

いつもの調子で、笑いながら南沢先輩に話しかける。
月山国光で過ごすことになる先輩。きっと、新しい出会いもあるだろう。…新しい出発をするために、私という足枷を取り払ってください。


「じゃあ、教えるから…これからも、俺と」
「駄目ですよ先輩。先輩が決めたことなんですよ、新しい場所でのスタートも、全部全部。…だから、私や…雷門の皆に黙って行っちゃったんでしょう?」
「……」

先輩、
先輩は新しい出会いを見つけてください。先輩、私じゃあ先輩の隣に立つことは…支えてあげることが出来なかったんです。だから、先輩に相応しい人を見つけてください。


「あの日、お前には言おうと思っていた」
「……」
「伝えようと思ったんだ。…だけど、お前が悲しむ顔が見たくなかったんだ。だから、それなら…いっそ、黙って去ろうと思ったんだ」
「……」
「俺は、弱いんだ。月山国光に転校してからも、雷門と決別なんて出来なかった。…いつも頭にあるのは、あいつらとのサッカー、そしてお前の笑顔。今日だって、頭がめちゃくちゃなまま試合してた。…けど、俺はやっと気付くことができた」
「……」
「雷門がやりたかった事、そして…お前が俺にとって、どんな存在なのか、」
「駄目、先輩…私は、足枷になっちゃうの…、先輩が、やっと…新しい…」
「枷になんて、なるわけないだろ。…お前は…名前には、俺の隣にいてもらいんたいんだ」
「でも、私は…、わたし…は」
「俺の隣はお前しか…考えられないんだよ」
「……わたしは」
「言うのが、遅くなって本当にごめん。……………好きだ」
「南沢…せんぱ」
「…寂しがらせてごめんな、…だから、無理に笑うな」
「っ、ううっ…」


そう、私は寂しかったのだ。本当は先輩とお別れなんてしたくなかった。今まで南沢先輩と一緒にいるのが当たり前だった。だけどその当たり前が崩れて、寂しくて寂しくてたまらなくて…。
だから、私は一々理由をつけて自分が傷つかない道ばかりを探していた。だけど、その先にあるのは何の意味も成さない私の未来。

先輩の手が差し出される。私はその手を握り返す。遠い恋愛になってしまうけど、不安なんてない。道は違えども、たどり着く場所は同じなのだから。






20111023





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