(ぐだらー設定)


「名前ー、起きろー。今日染岡委員会で遅くなるから一緒に帰れそうにないって」
「んあ?」
「んあ?じゃない。はい、起きて」

半田に優しく揺すられて、目が覚める。机から体を起こして、あくびを一つ。
いつもように私の鞄を持ってくれようとしてくれたが、それを断る。今日は染岡がいないから、しっかりしないと。ほっぺたをぎゅぅっと抓ると、半田が「何をしてるんだ?」と笑いながら言って、それから少しだけ赤くなった私の頬を優しく撫でた。


「半田、帰ろ」
「珍しいな、ちゃんと起きるなんて」
「今日はあんまり眠たくないの」
「へえー」


下駄箱まで歩いていって、靴を履き替える。そして、半田に手を引かれ校門を後にする。
ゆっくりと、私のペースに合わせて歩いてくれる半田の手をぎゅっと握ると、優しく微笑まれる。半田と一緒にいると、心がぽかぽかしてなんだか落ち着くんだ。


商店街を二人で歩いていると、可愛らしいお店が目に入る。…あのお店なんだろう?
半田も同じことを思っていたようで「行ってみるか?」と私を誘ってくれた。私は頷くと、半田に手を引かれそのお店の近くまで行ってみることにした。

お店に近づくにつれて、あまーいにおいが辺りに漂い始める。…あ、これは…!
お店のショーウィンドウから覗くカラフルなリング型のお菓子。私はこれが大好きだ。


「ドーナツ」
「ああ、新しく出来たのかな?」
「おいしそう…」
「…入ってみる?」
「うん」

カランカランと音を立てて開くドア。綺麗なお姉さんが空いている席に案内してくれた。
メニュー表を開いてみると、可愛いドーナツの写真つきで、見ているだけでとても楽しい気分になってくる。


「美味しそうだな」
「うん」
「名前はどれにするんだ?」
「私は…、これとこれ」
「んー、じゃあ俺はこれにしようかな。…すみませーん」

半田が手をあげて呼ぶと、ニコニコと笑いながらこちらへ近寄ってくる店員さん。
ご注文をお伺いいたします、と聞かれて、半田が私の分と自分の分を注文してくれた。

それから、他愛も無い話をしながら待っていると、5分も経たないうちにドーナツが運ばれてきた。
でも、ドーナツのほかにもクッキーやら紅茶やらが一緒に運ばれてきたので、半田が戸惑いながら店員さんに聞く。


「あ、あの…これ、注文した覚えが無いんですけど…」
「こちらは、カップルでお越しくださったお客様限定でつけさせていただいています。どうぞお召し上がりくださいませ」
「カ、カップル…」
「それではごゆっくり」

半田の顔がボっと赤くなる。…?
不思議に思って覗き込むと、何故か「ごめん」と謝られる。…ん、どうしたんだろう?


「俺なんかとカップルって、間違われてごめん」
「?」
「…あー、いや、やっぱ何でもない。ほら、早く食べよう」
「…」

半田の態度が何だか余所余所しくて疑問に思ったけど、まあ…いいか。
お手拭で手を拭いて、ドーナツを一口がぶり。シュガーが口の中で溶けて、甘くて美味しい。何だかとても幸せな気分になる。


「美味しいよ」
「ああ、よかったな」
「また来たいな」
「…そうだな」
「今度は染岡とくーすけも一緒に」
「そ、そうだな…」
「半田?」
「い、いや…何でもないよ。うん、何でもない」
「?」


はあ、っとため息をつく半田。…元気ないのかな。
うーん…だったら。

私は半田の隣の席に移動して、今まで自分の食べていたホワイトシュガーのドーナツを彼の口元まで持っていく。
少しだけ驚いた表情になる半田に、口を開けてもらうように頼む。


「え、え…?」
「あーん」
「ちょ、え?名前?」
「…食べないの?」
「い、いや!食べる!食べるさ!」

ぱくりと半田の口の中に消えていくドーナツ。少しだけ赤い半田の頬。
食べ終わるのを確認して、私は半田に聞いてみる。


「幸せになった?」
「…へ?」
「これを食べたらね、幸せな気持ちになったから。…半田にも幸せをおすそ分けだよ」
「名前…」


私がそう言うと、半田は優しく笑って頭を撫でてくれる。それがとても気持ちよくて、私は目を細めながら笑った。








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慎さんのみお持ち帰りokです



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