今日は速水くんの部屋でお家デート。
お家デートってね、安上がりだけど…どんなデートよりもドキドキするって、私は思うんだ。…だって、狭い部屋に好きな人と二人きりだよ?ドキドキはいつもより数倍増し。楽しくお話してちょっと良い雰囲気になって、キスをして…。そんな展開を夢みてるんだけど、どうも速水くんは違うみたい。


ベッドの上に腰をかけて座る速水くんから聞こえる、しゃかしゃかしゃかしゃかという音…。
彼のおばさんに出してもらったオレンジジュースを飲みながら、私は彼のほうをチラリと見た。

彼の耳には、愛用のヘッドホン。そこから聞こえる軽快なポップス。速水くんは音楽を聴きながら、オレンジジュースを飲んでいるのだ。
せっかく彼女が家に来ているというのに…、速水くんはそんなの関係ないと言わんばかりに、一人自分の世界に入っている。
最初は照れてるのかな?なんて思ったんだけど、何分も何十分もこの調子だと、私だって少しヘコむ。


「速水くん…?」
「……」
「はーやーみーくーんー!」
「……」
「………」


先ほどから何回呼びかけても返事がない。…当然だ、だって音漏れするくらい大音量で音楽を聴いているんだし。
あーあ、私何しに来たんだろう。お家デートじゃなくて、ショッピングとか行ったほうが良かったのかな…?遊園地とか、水族館とか動物園とか…。

普通のデートだったら、速水くんは私と少し距離を取りながら歩くけど、お話はしてくれるし…。
何だか少し悔しくなってきて、私はオレンジジュースをおぼんの上に置いて彼の隣に座った。少しだけ彼の肩がぴくりと動いた気がした。


私は、速水くんの細い左腕に自分の右腕を絡めて、擦り寄る。


「…!?」
「……」


戸惑う速水くんを無視して、私はそのまま目を瞑った。
…何分か過ぎて、速水くんは相変わらず音楽を聴いたまま…、だけど少しだけ顔が赤かった。

そんな彼の様子がとても愛おしくて…、私は小さな声で「好き」と呟いた。
すると速水くんは目を見開く、そして赤い顔のままこちらを向いた。あれ、聞こえていたのかな?さっきは大きな声で呼びかけても聞こえていないみたいだったのに…

速水くんをじっと見ていると、彼は少しだけ目を逸らしながら私よりも小さな声で「反則ですよ…」と呟きながらヘッドホンを外した。私が彼の名前を呼ぶと、速水くんはぽつりぽつりと話し始める。


「い、今までがんばって我慢していたのに…」
「我慢?」
「…す、好きな人と二人きりなんて…我慢、できるわけないじゃないですか…」
「?」


速水くんの言葉がよく理解できなくて、首を傾げていると、突然彼に抱きしめられた。…え?
状況を理解してくると、段々と顔が熱くなっていく…。


「は、速水く…」
「苗字さんが俺の部屋にいるって、意識してしまったら…すごく恥ずかしくて…、でも嬉しくて…て、手を出してしまいそうで…だからずっと我慢していたのに、…苗字さんが抱きついてきたせいですよ…?」
「速水く…んっ…」


私の言葉は速水くんの唇によって遮られた。
速水くんの柔らかくて熱い唇が、私の熱をさらっていく。

一旦離れて、また合わさりあう唇。
何度も繰り返されるその行為に頭が真っ白になった頃に、やっと解放された。


「はあ…、っ…速水くん…」
「苗字さん…、俺…」
「…へへっ」
「わわっ…!」


何だか嬉しくなって、幸せな気持ちが胸の奥から湧き上がってきて、私は思わず速水くんに抱きついた。
すると、彼はよろけながらもしっかりと私を抱きしめ返してくれる。


「速水くんが構ってくれなくて寂しかった」
「…す、すみません…」
「でももう一回キスしてくれたら許したげる」
「っ、苗字さん…!」
「ね?速水くん、はやく」


目を瞑ると、再び優しい唇が降ってきた。



ヘッドホン越しのスキ




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