合宿が終わった次の週の日曜日。
メールで連絡を取り合って、部活のないこの日に初めてのデートをすることが決まった。


待ち合わせの30分前。私は待ち合わせ場所の駅前でそわそわしながら倉間を待っていた。
この日のために買ったワンピースの裾をぎゅっと握り締めながら、何度も何度も携帯を開いては時間を確認する。

そんなに時間が気になるなら、もっと直前に来い?…だ、だって…遅刻したくなかったし、倉間を待たせたくなかったし…。
…待ち合わせの時間までがとても長く感じる。実際、デートすることが決まってから今日まで、時間が経つのは遅かったし。楽しみにしていることがあると、普通はそうなるよね。



「苗字」

そわそわと落ち着かずに待っていると、名前を呼ばれた。…この、声は…!
バッと顔をあげると、そこにいたのは倉間だった。し、私服…!かっこいい…!

思わず赤くなると、向こうも何故か赤くなって…。駅前で見つめ合い赤くなるって、どうなんだよ。とか心の中で思っていても、どうにもならなくて…。
そこで実感。ああ…今からデートをするんだ。く、倉間と、デートをするんだ…、私…!

彼とは想像(妄想)の中で何度かデートをしたことがあるのだが、やっぱり想像(妄想)と現実は違う…!
頭の中がごっちゃごちゃになる。だけど頭の中の混乱もすぐに収まった。倉間の「とりあえず切符買おうぜ」という声で我にかえったのだ。

どもりながら返事をして、駅のマップを見ながら目的地までの料金を払う。
今日のデートは、近くの(とは言っても、3駅先の)ショッピングモールへ行くという内容だった。
11時に待ち合わせて、ショッピングモールに着いて、それからご飯を食べて、ショッピング、帰る…という流れだ。

切符も買い終わり、私たちは電車に乗り込んだ。倉間と、初めて乗る電車…。そう思うと、何だか電車に乗ることも大事なイベントに思えてしまって、一人で感動していた。
快速電車に乗ったので、すぐに目的地に到着する。5分ほど歩いて、ショッピングモールの中に入った。


まだ夏休みということもあって、家族連れやリア充がわんさか。…私たちもリア充に見えてるのかな?…な、なんだか恥ずかしいや。


とりあえず私たちは昼食を食べるために、レストラン街をうろつく。
ハンバーグの店やパスタのお店、うどんやそば…とろろ専門店なんていうのもあった。お金にも余裕がないから、フードコートが一番なんだろうけど…、でも初デートだし…ちょっとでも雰囲気のあるお店がいいなあ、なんて思っている。言わないけど。


「何でもあるし…フードコートか?」

…!倉間の提案に、少しだけぎくりとした。
でも、倉間も私に遠慮して言ってくれたのではないのだろうか?…中学生だし、お金ないし、何でもあるし…。


「うん、そうだね…」
「……」
「フードコートいいね、そうしよっか!」
「…お前さ、思ったことがあるんならちゃんと言えよ?」
「…え?」
「…お前も、もちろん俺も…楽しめないと意味がないだろ。…それに、遠慮なんかする関係じゃ、ねえし」
「倉間…。…うん、そう…だよね。…ありがとう。…あのね?」

私が先ほど思っていたことを話すと、倉間も「それもそうだな」と言ってくれた。
とりあえず、フードコート以外の…できるだけ安い店を探した結果…パスタのお店に入ることになった。

二人で席に座って、ご飯を食べる。…何だかそれがちょっとだけ恥ずかしくて、でも幸せで…。ああ、いつかこういう風に二人で食卓を囲めたら…嬉しいな、なんて思った。




昼食を食べ終わり、私たちはショッピングをする。…と言っても、お金は殆どないので見るだけ…だけど。
それでも倉間が隣にいるだけで、とても楽しい時間に変身するんだ。

…だけど。
私はゲームセンターをチラリと見る。…私は、どうしてもやりたい事があった。
でも、倉間が納得してくれるかがわからない。…倉間は、プリクラは嫌いかな?…私は、思い出を作りたかった。プリクラなら、400円。二人で割って200円づつ。それに、写真という形で残る…。どうしても、プリクラが撮りたかった。

…でも、さっき倉間が遠慮をするなって…言ってくれたんだ。ちょっとだけ恥ずかしいけど、勇気を出して言ってみよう…!
少しだけ先を歩く倉間の服の裾を掴み、引き止める。すると、倉間は少しだけ顔を赤くして振り返った。


「…どうした?」
「あの、ね。…プ、プリクラ…撮らない?」
「プリクラ?」
「い、嫌だったら良いんだけど…」
「別に…、いいけど」
「!本当?」
「…ああ」
「…へへっ、じゃあ行こう!」


倉間の手を引いてプリ機の中に入る。背景も倉間と二人で選んで(倉間はプリクラ自体がはじめてらしいから、少し戸惑いながらだったけど)それから撮影。
もちろん二人でラクガキをする。…ふふっ、倉間…どれもそっぽ向いてる。

そのうち一つに、倉間と私の名前を書いて…その間にハートのスタンプを押した。…それから印刷されて出てきたものを倉間に手渡し、それからお店を出て家に帰った。
帰ってからプリクラを見ると、倉間がラクガキをしたプリはスタンプだらけで、ああ、最初はみんなこんな感じでラクガキするよなーなんて思いながら笑った。




後日南沢さんから倉間には内緒で聞いた話なのだが、倉間の携帯の電池パックのある場所のフタの裏に、私が名前の間にハートのスタンプを押したプリクラを貼っていたところを目撃したらしい。…実は私も貼っているということは、内緒にしておこうと思う。






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