陽花戸中の皆はお祭りが大好きだ。
だから年に一度ある学園祭は、生徒や先生が張り切って盛り上げて、とても華やかなものになる。クラスごとに模擬店を開くこともでき、名前はクラスでやる喫茶店の準備に追われていた。

材料の買い出しを終えた名前は、クラスメイトに断りを入れ部活に顔を出すことにした。
いくら学校最大のイベントが控えているとはいえ、サッカーをしないわけにはいかない。空いた時間を有効に利用し、練習をしていた。

ユニフォームに着替えると、コンコンとノック音が聞こえた。名前が返事をすると、立向居が大量の荷物を持って部室へ入ってきた。その足取りは覚束ない。


「大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫です!お疲れ様です、名前せんぱ…うわあっ!」
「言わんこっちゃない…」

立向居が落とした荷物を名前が拾い始めると、立向居も慌てて残っていた荷物を部室の机に置き、それから名前に向かって何度も頭を下げながら一緒に拾い始めた。


「立向居のとこは何をやるんだっけ」
「俺のクラスはお化け屋敷ですよ!」
「お化け屋敷か…準備大変そうだね」
「ダンボールとか沢山必要なので、近所のスーパーを手分けして探し回ってるんですよ」
「で、この荷物は何で部室に持ってきたの?」
「あ、それが…置く場所が無くて…」
「部室もそれほど広くはないんだけどねぇ…」
「す、すみません…!」
「あははっ」

少しだけからかったら本気にとられて、縮こまる立向居に苦笑する。
すると、彼の頬に黒い線が走っているのが見えた。マジックか何かだろうか?作業しているときについたのかな?

ひょいひょいと立向居を呼ぶと、彼は首を傾げながらこちらへ近づいてきた。名前はそんな彼の頬についたマジックを手で優しく擦り落とした。…うん、やっぱりマジックだったみたいだ。こんなものつけて、可愛いな。
そう思いながら立向居を見ると、彼は顔をタコのように真っ赤にさせていた。…?


「暑いの?」
「あ、…熱いです」
「まあ作業してたら体も火照ってくるよね。気を付けなよ。夏じゃないとはいえ、油断してたら倒れるよ」
「は、はい…(この人、無意識でこういうことするからなぁ…)」


名前は立向居から離れ、靴下を履く。ふう、自分も今まで出回っていたから暑いや。額に浮かび上がった汗をタオルで拭きながら、持ってきたドリンクを口に含んでいると、荷物を整理していた立向居が、再び近くへやってきた。


「名前先輩…」
「?…どうかした?」
「あ、あの…その…が、学園祭…誰と、回るんですか…?」
「学園祭なら…戸田と筑紫と約束してるけど」
「あ…そ、そうなんですか…」
「立向居は?」
「お、俺は…、……お、俺はクラスのやつと…約束しています」
「そうなんだ。それにしても学園祭楽しみだね、兄さんも来るんだよ」
「そ、そうなんですか…」

立向居の様子がおかしいことが気になったが、彼は相談があったらすぐに自分のもとへやってくるから、気にしないでも大丈夫だろう。そう思い、名前は立向居に手を振って部室を後にした。一方部室に残った立向居は大きなため息をついていた。



「はあ…よりにもよって、戸田先輩と筑紫先輩か…」


あの二人は、名前先輩と特別仲が良い。小学校の頃からずっと一緒にいるらしいけど…、…自分より関係が深いのは当たり前だけど…それでも、嫉妬しないわけにはいかなかった。
筑紫先輩と名前先輩は兄妹みたいだけど、問題は戸田先輩だ。…よく二人で一緒にいるのを見かけるし、戸田先輩はキャプテン、名前先輩は参謀のようなものだから、部活でも一緒にいることが多い。クラスだって一緒だし、…ああ、きっと学園祭の準備も二人仲良く…。

…自分が、もう一年早く生まれていれば…。
1つ上の学年には、自分が憧れている人が多い。名前先輩しかり、円堂さんしかり…。夢のような学年だ。…自分には眩しいくらい。
自分は後輩という立ち位置でいるのが一番良いのかもしれない。…でも…。



「一緒に、回りたかったな…」





わたしから一番遠いきみに



学園祭当日


「あ、立向居」
「こ…こんにちは筑紫先輩!」
「立向居一人なのか?」
「あ、はい…」
「(……)じゃあ僕たち三人いるから半々に分かれようか」
「え…?」
「じゃあ俺が行「名前、立向居今一人なんだって。一緒に回ってあげなよ。ほら、射的してないでこっちにおいでよ。君は射的のセンスないから粘っても意味がないよ」
「筑紫は本当に失礼だな。…ん、わかった。行こうか、立向居」
「は、ははははいっっ!!!」
「そもそも何で二手に分かれるんだ?一緒に「空気読め戸田」



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