「蘭丸キスして」
「…此処で、ですか?」
「今すぐに欲しいの!」
「はぁ、仕方ないですね。…ほら」
「わーい!」


俺が手を広げると、すぐに飛び込んできた名前先輩。ふわりと先輩のつけているバニラの香水の匂いが漂ってきた。
ちなみに此処は部室。部活も終わって着替えも終えた部員たちが思い思いの時間を過ごしている中、俺たちは抱き合ってキスをしていた。…ああ、わかってる。周りの皆の視線が冷たいことくらい。俺たちがただのバカップルだということも。

本当はとても恥ずかしい。何をしているんだって自分を怒鳴りつけたい。…でも、でも…。
チラリと自分の腕の中にいる名前先輩を見る。…可愛い。かわいすぎる。こんなに可愛い先輩が自分のものだって、周りに自慢したい。

先輩は俺のものなんだ。
そう思うと嬉しくてたまらなくなって、俺は先輩を抱きしめる力を強めた。


下校時刻を過ぎ、俺は先輩を送るために自宅とは逆方向の先輩の家へと向かっていた。
全然苦ではない。むしろ先輩と一緒にいる時間が増えて好都合だった。



「ねえ、蘭丸。いつもありがとうね」
「何がですか?」
「いつもいつも家まで送ってくれるじゃん。…蘭丸優しいよね、大好きだよ」
「先輩のためですから。…俺も大好きですよ」


つないだ手をぎゅっと握りしめて、先輩の高い体温を右手で感じながら、俺たちは歩いた。
だけど、そんな幸せな時間もすぐに終わってしまう。…先輩の家の前で自然に離れる俺たちの手。物足りなさを感じながら、俺は先輩がドアに向かうのを見送る。

先輩がドアの前でくるりと振り返る。いつものように「バイバイ」と言うのかと思いきや、先輩の口は俺の予想していた言葉とは違う言葉を発した。



「ねえ、蘭丸。今日お母さんもお父さんも遅いの。だから、晩御飯私が作るんだけど…よかったら食べていかないかな?」


いつもとは少し違った、恥ずかしそうな口調で言う先輩。きっと二人きりなのが恥ずかしいのだろう。かわいいな。
俺はコクリと頷き、笑った。すると先輩はとたんに嬉しそうな、恥ずかしそうな顔ではにかんだ。


先輩の家には何度かお邪魔させていただいたことはあったが、二人きりというシチュエーションは初めてで、さすがの俺も少しだけ緊張する。
先輩に促されて俺はキッチンのテーブルに座る。先輩は制服の上にエプロンをつけて、キッチンへ向かった。…なんか、新婚みたいで良いな。

しばらくするとキッチンからおいしそうな匂いが漂ってきた。それからすぐに先輩が出来上がった料理を運んでくる。オムライスだった。…俺の好きな料理だ。



「美味しそうですね」
「蘭丸のこと思いながら作ったよ」
「…嬉しいです」

ジャムのように甘ったるい会話でさえも心地よい。それほど俺は先輩に、先輩は俺に溺れていた。
心が幸せに侵されていくのを感じながら、俺はオムライスに手を付ける。…ん、おいしい。



「美味しいですよ先輩、ありがとうございます」
「蘭丸に喜んでもらえて本当に良かった」
「また食べたいです」
「ふふっ、まだ食べ終わってないのに」
「今度はほかの料理も食べてみたいです」
「ん、じゃあ今度は蘭丸の家に作りに行くね」
「ありがとうございます」


俺たちはお互いに依存し合っている。お互いがいないと、成り立たない。
オムライスを食べ終えて食器を洗った後、俺たちは先輩の家のソファで二人並んで座っていた。先輩が俺に体を預けて、俺はそれを支えていた。
幸せそうな表情で俺を見て笑ってくる先輩の頭を撫でて、俺も笑う。幸せだ。



「なんだか新婚さんみたいだね」
「あ、それ俺も思いました」
「ふふっ、幸せ」
「俺も」
「…あのね、蘭丸。私、いつか本当の新婚さんになりたいな。蘭丸と」
「俺も名前先輩とずっと幸せでいたいです」
「なんだか恥ずかしいね」
「部室でキスのほうが恥ずかしいですよ」
「それもそうだ」



俺たちは笑い合って、それから体を寄せ合う。
ほんのりと温かく優しい光が俺たちを包み込んで、俺たちを照らした。




ずっと一緒にいようね、約束だよ。






20120508




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