俺、南沢篤志はひどく苛ついていた。
…理由は、アレ。


「あ、あ…く、らま…ドリンク…どうぞ」
「…あぁ」
「タオル…い、いる?」
「…あぁ」


俺の視線の先には、この間の合宿でやっっっっっっっっっっっとカップルになった後輩の倉間と名前。
あの合宿から2週間が経った。…そう、2週間だ。
2週間経っても、アイツらはあの様子だ。最初は初々しいな、なんて思ってたけど今は初々しいなんて思いやしない。めんどくせぇ、超めんどくせぇ。つーか倉間「…あぁ」しか言ってねーじゃん何なわけ。

毎日毎日部活で顔を合わせているはずなのに、何で恋人という関係に慣れない?

すると、倉間にドリンクを渡そうとした瞬間、名前の持っていたボトルが地面にバシャっと音を立てて落ちた。


「あっ…ドリンク…!蓋、取れてたんだ…!ご、ごめん…すぐに新しいのを持ってくるね…!」
「いや、いい」
「え、でも水分補給しないと…」
「もう、…時間ないし」
「あ…ぁ…ごめ、ん…」
「いや…」


何なんだアイツら。


これなら付き合う前のほうがよっぽど仲良さそうだったぞ。
というか、何で気まずくなってんだよ。普通恋仲になったら距離が縮まるモンじゃねぇのか?

せっかく部員で仲を取り持ってやったのに。…まあ、俺らがこれ以上干渉したら、ただのおせっかいになるから、何もする気はないけど。
…けど、…。



やっと思いが通じ合ったんだ。…さっさと二人で楽しそうに笑えよ。



もどかしすぎる二人に対して大きなため息をついていたら、名前が汚れたボトルを持ってサッカー塔へ駆けていく姿が見えた。
それをなんとなく目で追っていると、突然名前が何かに躓いてこけた。…おいおい、手ぇついてなかったぞ今…。

少しだけ心配になって彼女に駆け寄ろうとした時だった。水色の小さい何かが、俺の前を横切った。…倉間だ。


倉間は名前の手をつかむと、勢いよく引っ張り上げた。それから彼女の手を引いて、水道のあるほうへと向かっていく。
…はあ、やっと動き出したか。

俺は本日何度目かわからないため息を吐くと、2人が残していった土だらけのボトルを拾う。そしてそれを洗いに、2人が向かった水道とは別の方向にある水道へと向かった。




素直じゃない、恥ずかしがり屋。
アイツらは本当によく似ている。似ているからこそ、惹かれあって互いに反応し合っているのだろう。



倉間が名前を水道に連れて行くときに繋がれた、2人の手。
付き合う前は見ることができなかったソレ。



「…心配しすぎたな」


距離が縮まっていないことはなかった。2人の距離は、スローペースだけど確実に近づいている。
ドリンクのボトルを洗ってグラウンドに戻ると、ちょうどあの二人も戻ってきた。手こそ繋がれていないが、2人とも穏やかな顔をしていた。


…まあ、お互いあと少し相手に対して貪欲になれば良いとは思うけどな。




「(ま、ガンバレ)」



心の中で2人にエールを送って、俺は練習に戻った。





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