「ところで名前ちゃんさぁ、いい加減僕のもとへおいでよ」
「なっ…行くわけないでしょ!」
「つれないなぁ。何がそんなに嫌なわけ?」


旅の途中で立ち寄った宿屋。夕食前に少しだけ涼もうと近くの公園に足を運んだのが間違いだった。まさか…サレに出くわすなんて。
私はなぜかこの変態に気に入られている。そのためか知らないけれど、出会うたびに私を王の盾へ勧誘してくる。

この変態の部下になるなんてごめんだし、大切な仲間を裏切れるわけがない。それに…


私はヴェイグの顔を思い浮かべる。フォルスの力のことで思い悩んでいた私を叱咤してくれた彼。戦闘でも頼りになって、本当にかっこいい…私の好きな人。
彼と離れるなんて、ありえない。誰がサレなんかについていくものか!



「こっちにくるほうが、ヴェイグたちと一緒にいるより楽しく過ごせると思うけどなぁ」
「私はそうは思わないけど。ヴェイグたちと一緒にいるほうが絶対楽しい」
「3食豪華な食事、ふかふかな高級ベッド、優しい上司。それに比べてそっちは満足に食事にありつけない、寝床は宿屋の固いベッド悪い時は野宿、うるさいガキ付き。どう考えてもこっちのほうが幸せじゃないか」


確かに、そうかもしれない。
だけど私はそうやって仲間たちと苦労して楽しく毎日を過ごすことが大好きなのだ。

それをサレに伝えると、あからさまに不機嫌な顔になる。その時だった。



「名前!!」


大きな体が、私とサレの間に割り込んだ。
私の胸が高鳴る。弾むような声で、私は彼の名前を呼ぶ。



「ヴェイグ!」
「名前、何もされてないか?」
「何もされてないって…失礼だねぇ」
「サレ!お前はここで何をしている!」
「何って…見てわからないかな?名前を誘っているんだよ。王の盾に入らないか?ってね」
「なんだと!?名前…」
「も、もちろん断ったよ!私…ヴェイグと、…ヴェイグたちと一緒にいたいもん」
「名前…」
「なァに甘い雰囲気醸し出しちゃってるのかなぁ?」


チッ、せっかくいい雰囲気だったのに邪魔しやがってこの全身ブルーベリー野郎め!
そんな意味を込めてサレを思い切り睨むと、奴は爽やかに笑いながらそれをスルーした。



「と・に・か・く!私は王の盾…というか、サレのもとになんて絶対に行かないから!」
「酷いなぁ、名前ちゃん」
「名前は渡さない」
「…はぁ、興醒め」


サレはため息をつくと、ヴェイグを一睨みしてから私のほうへ顔を向ける。
相変わらず胡散臭い笑顔を作ってから、私に向かってひらひらと手を振った。


「まだ諦めてないから」
「さっさと諦めてください」
「ふふっ、じゃあまたね名前ちゃん」


サレが去ってからすぐに、私は地面に座り込む。汚れるとかそんなことどうでもいい…。とにかく、はぁ…精神的に疲れた。
そんな私を心配してか、ヴェイグが私と同じ目線までしゃがんでくれた。


「大丈夫か?」
「ん…なんかドッと疲れた」
「……」


すると何を思ったのか、ヴェイグが私に背を向けるようにしゃがみこんだ。その両手は私に向かって伸びている。


「ヴェイグ?」
「宿屋まで負ぶろう」
「え、え…良いよ!大丈夫だよ!」
「遠慮はするな、疲れているんだろう?」
「で、でも…」
「遠慮するな」
「う…じゃ、じゃあよろしくお願いします」


ヴェイグの突然の申し出。最初は遠慮したが、ヴェイグが引いてくれなかったので私が折れることになった。
ヴェイグの背に体を預けると、彼が立ち上がる。いつもとは違う高さから見る風景に、私は心の中で少しだけ感動した。

そのままお互い無言で宿屋へ向かっていたが、ヴェイグがふと思い出したように口を開いた。



「俺と、…俺たちと一緒にいたいと言っていたな」
「え…う、うん…」
「…うれしかった。…勿論、マオたちも同じだとおもうが…。…俺は、すごく嬉しかった」


少しだけ頬を赤くして言ったヴェイグを見て、私はどうしようもなく嬉しくなり、そっと彼の背に顔を寄せた。




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