「ムカツク」


私の爪にピンク色のマニキュアを塗る隼総に向けてそう吐き捨てると、彼は右手の親指を塗り終えたみたいで、刷毛を液に浸していた。
余分な液を淵で落とし、隼総は人差し指を塗りにかかる。


「ムカツク」
「…と言われてもな」
「だって隼総上手すぎるもん、ムカツク」
「ちょ、動くな」

手首を押さえつけられ、私はしぶしぶと従った。
隼総はマニュキアを塗るのがとても上手い。いつもムラなく丁寧に仕上げてくれるので、将来はネイルアートの道に進めばいいと思う。あ、コレ結構本気で思ってるからね。

とにかく、私はそんな隼総がむかついてむかついて仕方なかった。
私は、彼とは違いマニキュアを塗るのがとても下手くそだ。いつも爪からはみ出すし、ムラありまくりだし、塗り残しなんて日常茶飯事ってくらい下手くそだ。

自分が出来ないことを他人がさらりとやってのけるのって、すごくムカツク。性格が悪い?あはは、よく言われる。
だけど毎回毎回隼総にネイルやってもらう私って、一体何なんだろうね。


そうこうしているうちに、隼総は指全体にトップコートまで施してくれていた。
流れるようなその作業に、やっぱり私の感想はムカツク、だった。

トップコートが完全に乾いたのを確認して、私は先ほどまで隼総が手にしていたマニキュアの蓋(刷毛つき)を持ち、隼総の右手を捕まえた。


「何だよ」
「いいから黙って塗られなさい!」
「何だよ、それ」


隼総の爪に色を加えていく。
最初は上手く入ったのだが、次の人差し指、中指、薬指…と色を塗るたびにムラが出来てきてしまう。ああ、もう!悔しいっ!


「つーか男にマニュアはないだろ…」
「口紅してる男が何を言う」
「…はあ、好きにしな」


右手を全て塗り終え、今度は左手に移る。…親指、人差し指、…隼総の指に何度かはみ出してしまったが、まあ…いいだろう。
いつもより上手く塗れたそれを見て、一人ニヤリとしていると、隼総の腕の中に引っ張られる。


「お揃いだな」
「そうだね」
「…もう一つ、同じにしてもいいか?」


「はあ?」
その言葉は隼総からの突然のキスに阻まれる。


「ん、」
「…ぁ、んっ…」


体中の熱が唇に集まっていく。…段々深くなっていくそれに、私はついていくだけで精一杯だ。
隼総の勢いに、頭が真っ白になった頃、やっと解放される。

肩で息をする私を見て、笑いながら隼総はにんまりと笑った。私と同じ色をした爪を持つ手で、自らの髪をかきあげる隼総。
私は反射的に自分の唇に手を当てた。








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