(ぐだらー番外編で大学生設定)





同じ大学に入ったは良いが、学科が違うと顔合わせる機会もあまりなく、一緒にいる時間が激減した俺たち4人。
昼飯などは一緒にとるのだが、そのときに名前が出した話題に、俺たち3人は揃って顔をしかめることになった。


「さいきん席隣の子がたくさん話しかけてきて、授業中あんまり寝なくなった」
「へえ、しつこいのか?」
「ん」
「…もしかして、それって男か?」
「んー…、なんとかくん」
「……ふぅん」


名前がそいつの名前を覚えていないのは当然だが、個人特定できないのは痛い。
…名前は昔からとても可愛かったが、大学生になった今、そこに色気も加えられて…なんだ、その…。み、魅力的というか、だな。と、とにかく、…そ、そうだ。大人に、なった。だから、というか…高校生くらいからだったか、男に告白されるようになったのだ。

だけど、高校のときは中学の時のように俺たちという壁…というか、なんというか…まあ、そうだな、壁という表現が一番合ってるか。ああ、壁だ。俺たちという壁があったためか、名前が1人じゃないときは、よほどのことが無い限り(それこそ、告白する時以外)、男たちは近寄ってこなかった。…だけど…


大学では、ぐだらーは1人だ。自分たちという壁もない。
…名前は、無防備だ。いつも寝ているし、警戒心もない。もしボーッと1人で突っ立っているところをトイレかなんかに連れ込まれて襲われでもしたら…?

チラリと俺は、名前を見る。…ウトウトしていて、眠そうだ。こいつは、この無防備さがデフォルトだ。……このままでは襲われるのも、時間の問題かもしれない。
どうしたものかと頭を抱えていると、名前が急に立ち上がった。


「どうしたんだ?」
「ん、クレープ買ってくる」
「あ、ああ、分かった」

スタスタと人ごみの中に消えていく名前をボーっと見つめていると、松野が立ち上がった。それに続けて、半田も立ち上がる。


「…?どうしたんだ、お前たち」
「どうしたんだ、じゃないでしょ染岡。さっきの話聞いてなかったワケ?」

さっきの話というのは言うまでもなく、名前に近づく男の話だろう。
でも、それと立ち上がるのは何の意味があるんだ?俺がそう聞くと、松野が顔をしかめる。  


「染岡、食堂は人がたくさんいるんだよ。…それだけ危険ってコト」
「あッ!」
「あ?どうした、半田…って、あ」


半田が指差すほうを見ると、列に並んでいる名前の横に一人の男が。しかもソイツは、馴れ馴れしく名前の肩に手を置いていた。
頭に血が上っていった、気がした。俺はすぐに名前のもとへ向かい、彼女の腕を引っ張り列から引き離した。


「染岡?どしたの?」
「いいから来いよ」
「ちょっと待てよお前!何急に名前ちゃん連れて行ってんだよ!」
「あ゛?」
「ひッ!」


俺が付いてきた男を睨みつけると、男は情けない声を上げて体を引いた。松野がゲラゲラと笑っている。
すると名前が半田に、この男が授業中によく話しかけてくるなんとか君だと教えていた。…なるほどな、コイツが…。

俺たち3人が一斉に奴を見ると、男は肩を震わせた。…まあ、当然だと思う。
俺は普通の奴らより背が高くて強面だし、松野は派手な服装で、一見不良みたいだ。半田は…、まあ、普通の大学生だが。

そんな俺ら(俺と松野)に睨まれたら、大抵の奴は怯んでしまうだろう。目の前にいるなんとか君も例に洩れず、だった。



「キミが名前に何を求めているのかは分からないけどさぁ…、隣の席なのに名前も覚えてもらえてないような奴に名前のお守りはつとまらないと思うよ?」
「な、名前を覚えていない…?そ、そんなまさか…、名前ちゃん、俺…鈴木、だけど、わかるよね?」
「すずきくん?っていうんだね」
「!!!!」


名前の心を抉る一撃によってダメージを受けた鈴木はふらふらとした足取りでこの場を離れていった。
そんな鈴木を見送らずに、半田が満面の笑みで名前の腕を引きながらクレープの列に並びなおしていた。…半田もイイ性格になったよなぁ…。

俺と松野は荷物を置いてきた机まで戻る。その途中で、松野が溜息を吐いた。



「でも、いつまでも今日みたいなことやってられないよね」
「ああ…、そうだな」


俺たちは、大人になりつつある。いつまでも4人でいられるわけじゃない。
…だからこそ。だからこそ、限られた時間を4人で過ごしたいのだ。誰にも邪魔をされることなく、今までのように。

その輪を邪魔するやつがいたら、俺はそれを許さない。もちろん、松野も半田も同じだと思う。言葉や態度には出さないが、きっと名前もだろう。
誰であろうと、俺たちの邪魔はさせない。


俺たち4人の時間をこれまで以上に大切にしようと思った。





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