わたしは松野くんと付き合ってる…んだけど、最近あまり彼の恋人だってことが、実感できていない。
なぜなら、彼はわたしに好きって言ってくれないからだ。告白したのもわたしのほうからだし、わたしからの愛情表現はあっても彼からの愛情表現はほとんどない。最初は大好きな松野と付き合えただけで幸せだったけど、後から後から欲が出てきてしまう。そんな自分も嫌だし、松野くんの態度も腹が立つ。むきー。一体わたしは何に一番腹を立てているのかも分からないまま、彼との21回目のデートを迎えることになってしまった。


「おはよー、名前」
「…うん、おはよう」
「あれ?なんだか今日機嫌悪いね」
「気のせいだと思う。それより早く映画館行こう、席無くなっちゃう」
「席は予約してあるから平気だよ」
「……」


松野くんとのデートはいつも完璧。デートプランはいつも彼任せ。
いつもなら、わたしのために取ってくれてありがとう!と言うところだが、生憎今日のわたしは機嫌が悪い。プリプリしているわたしに苦笑しながら、松野くんはチケットをわたしに渡してきた。


なんでわたし、この映画が見たいって言ったんだろう。
映画が始まってから映し出されたのは、外国俳優の熱いラブシーン。はいはいリア充乙マジ乙!
他人の恋愛なんか見せられたから、ますます腹が立っちゃった。苦痛の2時間半を過ごしたわたしは松野くんと共に近くのカフェに入った。


「大丈夫?」
「…なにが」
「さっきから眉間に皺、寄ってる」


そう言って松野くんは自分の鞄から手鏡を取り出し、わたしに差し出した。キーッ、手鏡持ってるなんて松野くんイケメン男子すぎる。受け取って自分の顔を見ると、松野くんの言う通りわたしの眉間には深い皺が。


「……さっきの」
「ん?」
「さっきの映画の主人公、むかつく。愛されてるのに、他の男の人に目移りしたり…でも結局は本当の恋人のところに戻って、ハッピーエンドなんて。贅沢すぎるよ」
「まあ確かにあの女はちょっとな〜とは思ったな、ボクも」
「……」
「……」


無言が続く。
先に口を開いたのは、松野くんだった。


「映画の選択、間違えちゃったかな」
「…うん」
「あははっ、名前ってば正直だね。じゃあ今度はファンタジー系にでもしようか」
「……」
「…名前?どうしたの、なんだか今日…おかしいよ?」
「…だって、……」
「?何かあるならハッキリ…」
「…だって、松野くんが悪いんだもん」


わたしがそう言うと、松野くんは少しだけ驚いたようにそのまん丸な目を広げた。
それからわたしと視線を合わせると、首を傾げる。


「僕が?…何かした?」
「……」
「…うーん、言ってくれないとさすがの僕にも分からないよ」
「…松野くんが、好きって言ってくれないから…不安になって、それで…」
「うーん、つまり名前は僕に好きって言ってほしいわけか…」
「……うん。ごめん」
「なんで謝るの」
「だって恥ずかしいし…」
「…僕はね、名前。好き、愛してるなんて、ただの文字の集まりとしか思えないんだ」
「…え?」
「すきなんて、すときを合わせただけだし、あいしてるだってその5文字が集まっただけ。それだけの存在に、僕の気持ちを込めれるはずがないって思ってる」
「…?」
「…つまり、好きとか愛してるだけじゃ、僕の思いは伝わらないってことだよ」


大丈夫、僕もちゃんとキミと同じ想いだから。
松野くんはそう言うと、少しだけ赤い頬を隠さずにわたしに笑いかけてくれた。


「心配しないで」


キミの傍にいる。それが僕の愛情表現だから。



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