剣城くんは、普段はとってもクールで寡黙な人だけど、二人きりのときはとっても甘えん坊になるんだ。
勿論、私のことも甘やかしてくれて…学校にいる時はいつもこう思う。…早く帰りたい!剣城くんと二人でいたい!って。
部活が終わってから二人で剣城くんのお家へ向かう。
剣城くんのご両親は共働きで、帰ってくるのが遅い。だから、おじさんとおばさんが帰ってくるまで私は剣城くんのお家にお邪魔することにした。
お家に着いてから、私たちは途中にあったコンビニで買ったお菓子を机の上に広げる。
夕飯の前なのにお菓子を食べるのは、どうかと思うけど…。でも私にとって、大好きな剣城くんと一緒に大好きなお菓子を食べるのはとっても幸せなことなので、大目に見て欲しい。
「苗字、あまり食べ過ぎるなよ」
「はーい」
コンビニの袋を開き、中からチョコレートの箱を取り出す。
季節限定のイチゴのチョコ。CMでやってたから気になってたんだよね。
箱を開けて中身を取り出すと、ほんのりと香るイチゴ。
それを一つだけ摘むと、剣城くんの口元に差し出す。
「剣城くん、あーん」
「っ、え…?」
「だから、あーん」
「ち、ちょっと待て苗字!」
剣城くんは顔を真っ赤にしながら、チョコを摘んでいるほうの私の手首を持つ。
剣城くんの様子に首をかしげていると、剣城くんは少しだけ困ったように眉を寄せてから、私の手首を開放した。
「じ、自分で食べれる」
「…剣城くんは、私から貰うのはやだ?」
「……」
「…そっか、ごめんなさい」
剣城くんに謝り、持っていたチョコを食べようとした。…が、またもや剣城くんにその腕をつかまれた。
「剣城くん?」
「…すまない、苗字」
「…え?」
剣城くんはそう言うと、私の手を自分の口元まで持っていき、それから手の中にあったチョコレートをパクリと食べてしまった。
「つ、剣城くん…?」
「……」
長い間私の指に挟まれていたせいで溶けたチョコレートまで、剣城くんは舐めとる。何だか急に恥ずかしくなって、私の指に舌を這わす剣城くんから目を逸らした。
剣城くんが私の指から顔を離すと同時に訪れる沈黙。…先に口を開いたのは剣城くんだった。
「嫌じゃ、ない」
「え…?」
「…ただ、恥ずかしかっただけだ。…あまり、こういう事をするのは、慣れてない…」
「……」
「苗字…?」
私が黙りこんだのを気にして、剣城くんが私の顔を覗き込む。
剣城くんを見ると、彼は不安そうに私を見た。
そんな彼に覆いかぶさるように抱きついた。…といっても、彼は私より身長が高いから、彼の腕に収まる結果になってしまったけど。
「っ、苗字…?」
「剣城くんの馬鹿」
「なっ…!」
「恥ずかしかったとか…。私のほうが、恥ずかしいよ」
剣城くんに触れられた手を触りながらそう言うと、剣城くんの顔は真っ赤になる。
「嫌…、だったか?」
「…嫌じゃ、ない」
私がそう言いながら剣城くんの棟に顔を埋めると、彼はくすぐったそうに身を捩りながらも私を優しく抱きしめてくれた。
こんな優しくて甘い時間が、私は大好きだな。